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02/11更新版

2026.02.11

  • #高校生インタビュー
  • #MyprojectStories

探究で得た”自分だけの世界の見方”|株式会社baton 田村さん×マイプロジェクトアワード受賞者 藤本さん対談(後編)

(左から、株式会社baton 田村 正資さん・藤本 和奏さん・認定NPO法人カタリバ 山田 将平)

あなたには、他の誰とも違う「世界の見方」がありますか?

探究学習は「世界の見方を変える」、そんな力を持っている。当時高校生だった藤本さんは、マイプロジェクトを通した探究学習によって「タンポポを誰よりも速く正確に見つけ、種類まで見分けられる」ようになった。それだけを聞くと、単なる“特殊能力”が得られただけに見えるかもしれない。しかしそれは彼女が自身の目と体と頭で手に入れた、かけがえのない“世界の見方”の証(あかし)なのだ。

探究とは何か。そして探究を通じて私たちは何を得るのか。かつて高校生クイズで伊沢拓司氏とともに優勝した経験を持ち、現在は株式会社batonで「エヴァンジェリスト」として探究の魅力を伝えている田村正資さんと、認定NPO法人が運営する探究学習プログラム「全国高校生マイプロジェクト」2021年度アワード受賞者である藤本和奏さんに話を聞いた。

田村 正資

田村 正資(たむら ただし)さん

1992 年、東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は現象学(メルロ=ポンティ)。開成高校クイズ研究部リーダーとして、伊沢拓司 氏と第 30 回高校生クイズ優勝(2010 年)。 現在は株式会社baton で新規事業開発を手掛ける。これまでに YouTube チャンネル 「QuizKnock と学ぼう」や EC サイト「QurioStore」、探究型教材ポータル「探究Knock」の立ち上げに携わった。哲学者・作家としても活動しており、著書に『問いが世界をつくりだす メルロ゠ポンティ 曖昧な世界の存在論』(青土社)、『独自性のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

藤本 和奏

藤本 和奏(ふじもと わかな)さん

京都府出身。京都府立宮津天橋高校卒業、公立鳥取環境大学環境学部在学。高校時代に「丹 POPO 女子が見つけたこと」プロジェクトに取り組み、全国高校生マイプロジェクトアワード2021に出場し、ベストマイプロジェクトアワード賞を受賞。プロジェクトを通じて芽生えた「単に自然だけを見るのではなく、人がどう自然と向き合っていくべきか考えたい」という想いから、公立鳥取環境大学環境学部に進学し、土壌学の研究室に所属。全国高校生マイプロジェクトアワード 2023 全国 Summitでは司会を務めるなど、高校卒業後もマイプロジェクトとの関わりを続けている。

山田 将平

聞き手:山田 将平

認定NPO法人カタリバ 全国高校生マイプロジェクト全国事務局 事務局長。身の回りや社会をよりよくしていくプロジェクト学習(=マイプロジェクト)が、子ども達自身の未来もつくる学び方になると考え、学生時代からマイプロジェクトを届ける取り組みを推進。 2015 年から NPOカタリバに入職。「中高生の秘密基地」b-lab のスタッフとして勤務後、マイプロジェクト事務局へ。
高校連携、自治体連携、企業連携などの立ち上げ業務を担当。2024 年 4 月より事業責任者。

”価値”という言葉が開く探究の可能性

──高校生時代に藤本さんが所属していたフィールド探究部では「丹後の”価値”を見出す」ことがテーマだったそうですね。

藤本さん:顧問の先生は「丹後地方*の”価値”を見出して、地域の原風景を心に留めて、別の場所を見てもいいから、いずれ戻ってきてほしい」という想いを持っていました。

私にとって丹後地方の原風景は、初めて出会ったケンサキタンポポです。
タンポポへの関心は、高校生の中では共感を得られなかったですが、私がワクワクしている姿を友人が素敵だと思ってくれたり、この探究が丹後の未来について明るい気持ちになるような価値があると感じてくれたんです。

フィールド探究部の部員は丹後地方にそれぞれ違う価値を見出していたので、目的は同じでも手段が別々で、いろんな視点を見られるのがすごく楽しかったですね。

*丹後地方…京都府北部の丹後半島一帯のこと。

田村さん:「価値」という言葉の使い方が素晴らしいと感じます。
「好きなこと」という言い方だと、他人に何を言われようと「僕はこれが好きだから」で終わってしまいます。しかし、「価値」という言葉を使うと、それを証明する必要性や、他の人にもうまく伝わる形で表現しようとする開かれた姿勢が自動的に生まれるんですよね。
「価値」という言葉に他者の存在が内包されている。これは探究をするうえで、すごく重要な視点だと感じました。

探究を歪めないために大人が気をつけること

──探究を進めていくにあたり、先生や保護者など、周囲の大人たちの姿勢も大切ですね。

田村さん:先生や保護者をはじめ、探究に関わる大人が気をつけなければいけないのは、子どもが「褒められたいと思ってやっていないか」なんです。褒められるためにやった瞬間、その子の探究ではなくなる可能性が高まります。褒められるためにやったことは、その子のアイデンティティにはなりません。
学校現場で探究をする目的のひとつとして、教育課程から離れたり、将来”一人立ち”をした際に、社会で生きていく力につながる自立した状態を実現することが挙げられます。
先生や親に褒められるためにやっている感じがしないか。大人側の意図や欲望にその子が巻き込まれていないか。外から見ている人は、そこを気にした方がいいと感じます。

藤本さん:そう考えると、私自身「褒められるために」という感覚はあまりなかったですね。いつの間にか認めてもらっていた、という感じでした。
ただ一方で、今の高校生を見ていると、大学受験という社会的な出来事のために探究をするという事象が起きているなという印象も受けます。

田村さん:そこは難しいですよね。「〇〇〇をやってきた→受験がうまくいった」という話が、「受験がうまくいくために→〇〇〇をやろう」と、目的とツールの順番がひっくり返ってしまっているケースも多々あると思います。
受験対策としてうまくいったということと、探究がうまくいったということは別なんです。他人が作った評価軸によって自分が大きく左右されることから離れることが、探究でもありますから。
とはいえ、受験は人生ではすごい大きな出来事にはなるので、一筋縄ではいかない部分もあるんですけど、探究としての探究を考えようと思うと、「受験に使えるから〇〇〇をやった方がいい」というのは、もうそれは探究ではなくなっていくんだなとは感じますね。

藤本さん:受験対策として、自分の気持ちや心が動くかどうかとは別にやってしまうと、大学に入って自己紹介して「〇〇〇をやっていました」という時に、それをアイデンティティにできるかどうかで摩擦や葛藤が生まれやすくなってしまいますね。

田村さん:まさにそうで、タンポポの探究をしたことで、大学入っても「タンポポの人」だと見られても平気なのは、受験対策としての探究じゃない形で探究をやっていたからだと思うんです。

探究を育む”良い”環境とは何か

──周りの大人は、探究をどう後押しできるでしょうか?

田村さん:最適化しないことが大事かなと思っています。藤本さんがいろいろ紆余曲折して、使えたデータ・使えなかったデータがあったけれど、翌年は使えるようになったデータもあったじゃないですか?
一つの目標だけ、目的だけに向かって全てを最適化してしまうと、見えている世界がどんどん狭くなっていく気がします。

──そうすると関係ないことも大事ということでしょうか。

田村さん:むしろ関係ないことほど大事ではないでしょうか。というのは、探究は偶然にすごく左右されるタイプのものだなと思うんです。
たとえば、藤本さんは、所属していた部活の先生にタンポポの種子を渡されなかったら、タンポポに関する探究をしてなかったかもしれません。しかし、偶然のきっかけでタンポポをテーマに設定し、その結果として今はおばあさまに買ってもらったタンポポ色のワンピースを着ていますね。それくらい偶然に左右されるものだと思っています。

探究だから何か一つのものに決めて、逆算して最適化してやっていくだけではなく、周りの人はむしろ全然関係ないこともやれるような、関係ないことも考えられるような環境を作ってあげることが重要だと思います。

──探究をしたことで偶然出会えた人々からもらう刺激もありますね。

藤本さん:そうですね。私も、全然自分とは違うことをやってる・自分とは全く違う関心を持っているフィールド探究部員からすごく刺激になりましたし、色々な人々の目線でタンポポというものを見れるので、とても楽しかったです。また、偶然出会った地域の方との交流からもいい気づきがありました。

AI時代で変わる問いと答え

──移り変わる時代や社会の中で、今後探究がどのような位置づけになっていくと思われますか?

田村さん:探究という言葉は、いろんな場面でいろんな意味で使われています。2022年から高校で始まった「総合的な探究の時間」では、従来の「総合的な学習の時間」から大きく変化した点がありました。
それは「課題を発見し、解決する力」が重視されるようになったことです。
与えられた課題を解決するのではなく、自ら課題を発見する。これからの時代、AIが普及すれば答えはすぐに得られます。だからこそ、答えの重要性は下がり、問いの重要性が上がっていくと考えています。

そのうえで、私が探究で大切にしているのは「長持ちする問い」という概念です。「日本一高い山は?」のような問いは、検索すれば終わってしまいますよね。でも「面白いって何だろう?」「好きって何だろう?」といった問いは、誰しもに共通する一つの”確定した”答えが出ません。

そういう問いを自分事として捉え、一緒に生きていくことが探究だと思います。そうすると、日常で出会うあらゆるものがその問いの周りをぐるぐる回り始めて、太陽系のように集まっていく。それがその人なりの世界の見方、私は「パースペクティブ*」と呼んでいますが、そういうものを形作っていくことにつながります。

何年経っても、全然関係のない仕事に就いていても、「ここには〇〇タンポポがあるんだ」と思える。それは長持ちする問いであり、パースペクティブなんです。

みんなが探究で自分を変えるんだとか思う必要もなくて、気楽に開いたままで、自分の中に持ち続けるということを大切にしてもらえたらと思います。

*パースペクティヴ…「視点」「見方」「視野」などの意味を持つ英単語

QuizKnockが届ける「探究Knock」

現場の先生たちを支えるツール

──田村さんは探究学習を支援する取り組みをされていますね。

田村さん:私たち株式会社batonは、QuizKnockというメディアを運営していますが、その中でもっと教育の現場にも何か貢献できること、還元できることを考え、様々なことをしています。

その一つが「探究Knock」というポータルサイトです。2〜4コマ程度の探究型学習プログラムを用意していて、問いを立てる方法や、探究の成果のまとめ方、環境問題やエネルギー問題をテーマにしたものなどがあります。
例えば、株式会社ポケモンさんと一緒に作った教材では、「メガシンカ」という概念を考察する、つまり現実世界で起きているどんな現象と似てるのか、近いのかっていうアナロジー*を通して、自分の理解を深めていくというようなプログラムも用意しています。

*アナロジー…ある事柄をもとにして、他の事柄について推し量ること。

──プログラムを通じて、大切にしていることは何ですか。

田村さん:長持ちする問いやパースペクティブをどう作っていくかです。企業というのは、社会で取り沙汰される長持ちする問いにずっと向き合っている主体だと思うので、そういった企業と一緒に中高生の方々に提供できる問いを考えて、長持ちする問いの例として提示しています。
また、各プログラムの中で、クイズを作り、他人にシェアする手法や、アナロジーという手法を理解し解釈を深めるために使ってもらうなど、自分が探究していくときに使える色々な手法を各プログラムの中で学べるようなことを心がけて設計しています。

探究学習に課題を抱えている先生の皆さんには、ぜひ探究Knockもご覧いただけたらと思います。

株式会社batonの運営する「探究Knock」
サイトURL:https://tankyu.baton8.com/

──認定NPO法人カタリバの運営する探究学習プログラム「全国高校生マイプロジェクト」の探究学習支援について

認定NPO法人カタリバが担っている全国高校生マイプロジェクト全国事務局では、主体性を大切にしたマイプロジェクトの導入/実践などをサポートする「パートナー登録」制度を実施しています。
ご登録いただきますと、教材(ワークシート/動画)の使用や先進事例に触れられる勉強会・交流会へのご参加が可能です。(いずれも無料)

最後に・・・

田村さん:今、SNSやインターネットで他人と常に同じ指標で比較する社会になって、「自分だからこそ」という瞬間が見出しにくくなっていますよね。
絵を描くのが好きでもSNSで中学生がとんでもない絵を描いているのを見てしまう。視野が広すぎて、自分が自分であることの魅力が見えにくくなっています。
でも探究を通じて、タンポポを見分ける能力のような、自分だからこその世界の見方を形作っていくことができます。
それは誰かとの競争や比較とは違う形で、「私にはタンポポが見える」「私はタンポポが見える世界に住んでいる」それだけでも自分らしさになる。

探究活動を通して自分のあり方が形作られ、昨日とは違う自分を体験する。
それが一人一人の幸せにつながるという意味で、探究は本当に大事だと思います。

藤本さん:〇か✕か、それだけではなく△の部分が重要だと私は探究していて思っているんです。普段、色々な人とお話していて感じるのは、0パーセントか100パーセントでしか考えておらず、グラデーションを無視してしまっていることです。
△の部分、曖昧な部分というのを条件付き、この場合は〇だけど、この場合は✕だし、この場合だったら今度こういう場合があるというように、複雑だけれどそこを自分なりの解釈・処理・構造化して、それを発信できる力を養う、「△に着目する力」を身につけられるのは探究をするひとつの醍醐味だと私は感じています。

──おふたりとも、ありがとうございました!

後編では、探究をするにあたって大切なことや育む環境などをテーマに対談の模様をお届けしてきました。

前編をまだご覧になっていない方は、あわせてぜひご覧ください。藤本さんの高校生時代の探究活動にフォーカスし、探究で変化する世界の見方などについて、対談の模様をまとめています。

認定NPO法人カタリバは、高校生が身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げ、実行することを通して学ぶ探究型学習プログラムである、「全国高校生マイプロジェクト」を運営しています。

2011年の震災後に岩手県大槌町や宮城県女川町といった被災地で子どもたちの学習支援を行う中で生まれ、高校生が自らのウェルビーイングを実現する意欲と創造性を育むこと、そして、よりよい社会を形作るアクションが広がっていくことを目指して活動を続けてまいりました。現在では18地域、約10万人の高校生が取り組んでいます。

そして、マイプロジェクトに取り組んできた全国の高校生が学び合い、ともに次の一歩を考える場として、年に一度「全国高校生マイプロジェクトアワード」を開催しています。

今年は、2026年3月21日(土)〜22日(日)に昭和女子大学(東京都世田谷区)で開催となります。当日は現地・オンラインにて観覧可能でございます。

詳細は下記をご確認ください。
▶︎https://join.myprojects.jp/viewing2025

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