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(左から、株式会社baton 田村 正資さん・藤本 和奏さん・認定NPO法人カタリバ 山田 将平)



高校連携、自治体連携、企業連携などの立ち上げ業務を担当。2024 年 4 月より事業責任者。
部室にあった一袋の種子から始まる探究物語
──まずは、藤本さんの高校時代の探究について教えていただけますか?
藤本さん:高校では「フィールド探究部」に所属し、丹後地方におけるタンポポの分布調査に取り組んでいました。「丹POPO女子が見つけたこと」というタイトルで、2021年度の全国高校生マイプロジェクトアワード 全国Summitでも発表しています。
──どうして「タンポポ」だったんでしょうか?
藤本さん:きっかけはごく些細な出来事でした。フィールド探究部の顧問の先生に「何がやりたい?」と聞かれて「”植物だったら”何でもいい」と答えたところ、くしゃくしゃの袋に入ったタンポポの種子を渡されたんです。シャーレに種をまいてみると、想像していたギザギザの葉とは違い、可愛らしい双葉が出てきました。そこから、自生しているものも見たいと思い里山に足を運ぶと、「可愛らしい」ケンサキタンポポの花をみつけました。その感覚が、探究の始まりです。
──「”植物だったら”何でもいい」というのは興味深いですね。
藤本さん:実は、小学生の頃から雑草でおままごとをするのが好きでした。色とりどりの花がないと、おままごとのご飯が美味しそうに見えなくて、いろいろな花を集めていたんです。
中学生のとき、母から「そんなに花が好きなら、種苗業界という仕事があるよ」と教えてもらい、将来、植物に関わる仕事をしたいと思うようになりました。そこで、高校生のうちに植物に関わる研究をしようとしたのが背景にあります。
──実際やってみてどうでしたか?
藤本さん:タンポポに関する調査を進める中で、在来種と外来種の問題を知り、丹後地方全体の分布を調べることにしました。先生が運転する車で移動しながらタンポポを探し、黄色いものが見えると「ストップ!」と声を上げて確認していました。慣れてくると、色の濃さで種類まで判別できるようになりました。気づくと、道を歩いていても黄色いアメの包み紙をタンポポと見間違えて走り出してしまうくらいになっていました(笑)。

(藤本さん撮影のケンサキタンポポ)
──探究の過程で印象的だった出来事はありますか?
藤本さん:地域の方との出会いです。畑でタンポポを調べていたら「何しとるん?」と声をかけられて。話していると「草刈りをするとタンポポが増えるんだよね」とボソッとおっしゃったんですよ。
それがすごく大きなヒントになりました。タンポポは光が大好きな陽性植物なので、森林では生育困難です。草刈りという人の活動、つまり里山という人の暮らしがあるからこそ、タンポポも生育できている。山に入ったらもうタンポポっていなくなるんだなって、現地で実感しました。
田村さん:出会った地域の方が持っている知識は、藤本さんがいなかったらテキストとして記録されることもなかったかもしれませんね。藤本さんにとっても、そこでタンポポを眺めていたからこそ、まだ知識になっていないものを拾い上げるきっかけになりました。これこそまさに探究の醍醐味だと思うんです。
わざわざ自分の体を使って、現地に行って、自分の頭を使ってやることで、「自分がそこにいなかったら誰も知らなかったかもしれない」瞬間が生まれる。それはとても気持ちいい体験だったでしょうね。
藤本さん:そうですね。タンポポが生育しているということと、それを残してきた地域の「人の暮らし」があること。その価値を見つけられたことは非常に印象的でした。
発表資料に現れない、膨大な「見えない時間」
田村さん:マイプロジェクトアワード用の発表資料を見るとうまくいった部分がきれいに並べられていますが、2〜3年を10分で伝えるわけですよね。
実際にはうまくいかなかったことや、無駄だと思ったこともあったんじゃないですか?
藤本さん:おっしゃる通りです。分かりやすいストーリーにまとめていますが、実際には本当にいろいろありました。
まず分布調査が大変でした。タンポポが咲く期間は3〜5月と限られるので、3年やっても調査期間は累計半年程度に限られます。加えてコロナ禍で高校1年生の春は外に出られなかったため、さらに短い間での調査となりました。
それから、種子の発芽実験も苦労しました。マイプロジェクトアワードの発表では種子数や落下速度のデータしか出していないんですが、実は発芽条件の実験もしていて、2000個以上の種子をまいていたんです。でも当時は発芽率0%がざらで、ほとんど考察できず、「何のためにまいていたんだろう」と思いました。
とはいえ時間をかけてやったことなので、データを分析し続け、もう1年粘った結果、ようやく発芽適温についての考察をまとめることができ、日本植物学会で発表する機会を得ました。
田村さん:おぉ、それはすごいですね。高校2年生の時は、その場での散布能力を調べて、高校3年生では気温による発芽のしやすさを調べて、より深い考察につながっていったんですね。
5分で理解できる資料の裏には、何十時間、何百時間とただタンポポを眺めている時間や、タンポポが咲いている地域まで歩いていく時間がある。そういう発表には直接現れない時間こそが、探究の本質なんだと改めて感じます。

(藤本さんがこれまでに作成した各種発表資料抜粋)
探究で獲得する「自分なりの世界の見方」
──藤本さんの探究を聞いて、田村さんはどう感じますか?
田村さん:藤本さんは今、明らかにこの空間にいる誰よりもタンポポを見つける速度や精度が違いますよね。タンポポを見つけた後、何タンポポかまで見分けることができる。
世界を見る時のコンテクストがタンポポ中心で構成されているんです。そういう人の見ている世界って、私自身の見ている世界とどう違うんだろうと考えると、すごく面白いんですよね。
そういう世界の見方を作っていくことが探究なんです。それが経済的な価値があるかないかは別として、藤本さんが初めて行った土地で「この辺は〇〇タンポポが多い地域なんだ」と思えることが、尊い探究で得られる財産だと思います。高速で運転する車の中からでも、道端にタンポポがあるかどうかを見分けられる能力を獲得したこと、そしてそれによって自分なりの世界の見方ができたのは、発表には現れないけれど、探究の一番の成果だと言ってもいいんじゃないでしょうか。
──様々なテーマの探究でいえることですね。
田村さん:まさにそうで、これは別にタンポポに限らず、他の花でも木でも、建築様式でも、空模様でも匂いでも何でもいいのです。探究の過程で、他の人とは違う知覚の仕方をするようになっていくことこそが重要です。
藤本さんが自分の目と体と頭でやったからこそ、タンポポを見分けられるようになった。それは私はとても素敵だと思うんですよ。それはやっぱり自分で探究をやることの価値ですね。
──藤本さん自身は、探究を通してどんな変化がありましたか?
藤本さん:大学生になって、自己紹介で「こういうことをやってきた」と言うと、名前よりタンポポの方が覚えられてしまいます。
周りがそう反応してくれると、自分のアイデンティティになっているなと思うし、自然と持ち物が黄色ばかりになっていく。今日の服も祖母が買ってくれたものです(笑)。
何の役に立つかとは違うかもしれないですけど、探究の前後で自分自身の変化と周りの変化を感じますね。

田村さん:探究の中で自分が変化していくことは、普通の勉強とは違うんですよね。数学や英語は、あらかじめ決められた土俵の中で「どこまで行けたか」という物差しでしかない。
でも「タンポポをずっと見てきた」というのは、数学ができるできないとは全く別種の違いになる。だからこそ、自分と他人が違うことを認識しやすくなるし、自分のアイデンティティの一部にもなっていくんです。
前編では、藤本さんの高校生時代の探究活動にフォーカスし、探究で変化する世界の見方など、対談が進んでいきました。
後編では、探究をするにあたって大切なことや育む環境などをテーマに対談の模様をお届けします。ぜひご覧ください。
認定NPO法人カタリバは、高校生が身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げ、実行することを通して学ぶ探究型学習プログラムである、「全国高校生マイプロジェクト」を運営しています。
2011年の震災後に岩手県大槌町や宮城県女川町といった被災地で子どもたちの学習支援を行う中で生まれ、高校生が自らのウェルビーイングを実現する意欲と創造性を育むこと、そして、よりよい社会を形作るアクションが広がっていくことを目指して活動を続けてまいりました。現在では18地域、約10万人の高校生が取り組んでいます。
そして、マイプロジェクトに取り組んできた全国の高校生が学び合い、ともに次の一歩を考える場として、年に一度「全国高校生マイプロジェクトアワード」を開催しています。
今年は、2026年3月21日(土)〜22日(日)に昭和女子大学(東京都世田谷区)で開催となります。当日は現地・オンラインにて観覧可能でございます。
詳細は下記をご確認ください。
▶︎https://join.myprojects.jp/viewing2025