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マイプロジェクト

地域Summit

2021.11.18

学校マイプロを紐解く④/ー教員自らが探究し続けるー京都府立宮津高等学校・宮津天橋高等学校

学校発の探究・マイプロジェクトが当たり前になりつつある今、その本質はどこにあるのか。

このシリーズでは、探究・マイプロジェクトに取り組む高校生を支援するパートナーを対象に月1回開催されているonline勉強会に登壇いただいた事例提供校の話題を元に「学校マイプロとは何か」を紐解いていきます。

今回のゲストは、京都府立宮津高等学校・宮津天橋高等学校に勤める多々納(たたの) 智先生です。合併に向けて2校の生徒が混在しているという同校。過渡期を迎えた学校の中で、今でこそ意気揚々と探究に取り組まれている多々納先生ですが、約5年前までのご自身を「心を凍らせていた」と振り返ります。何よりも進路実績を向上させることを第一に、躍起になっていたあの頃。しかしそれから、社会の変容や学習指導要領や入試制度の変化、それに加えて生徒数減少などもあり、当時の「総合的な学習の時間」の使い方に疑問を持つようになったといいます。このままで大丈夫か?と他の教員と話すうちにたどりついたのが「探究活動」でした。

 

探究とは何か?教員自らが「体験」

しかし、そもそもその探究活動とは一体なんなのか…

そう考えた多々納先生らは、先進校と呼ばれる学校の視察へ向かいます。
そこで目にしたのは、勤務校の生徒とは全く違う高校生の姿でした。嬉しそうに探究の話をしてくる。勝手に探究を語り出す。

活き活きと積極的に学ぶ姿に衝撃を受けた先生らは、校内で報告会を開きました。

先進校ではどんな生徒が育ち、それをどんな体制で実現していたのか。

それらを発信することに加えて仕掛けたのが、教員同士の意見交流の場でした。

自分たちの学校ではどんな生徒を育てたいのか。そのためには何が足りないのか。

具体的な事例と比較することによって、具体的な生徒像や探究の必要性が見えてきたのです。

それはまさに「目線が一致した瞬間」だったと、多々納先生は振り返ります

勢いに乗った先生らは教員全員に「自分たちがやるとしたら、どんな探究テーマに取り組むか」という問いを投げかけました。

趣味や専門分野から生まれたテーマはなんと100近く。是非生徒にもこのテーマを探究してほしい、という力作ぞろいだったといいます(実際に採用してくれる生徒は現れなかったというエピソードも)。

 

これらの体験を経て、教員間では「答えのない探究に向き合うのには不安や不満が生じるからこそ、否定や強制はしたくない」「想いを語り合い、楽しく臨めるようにしたい」といった、探究に必要な関わりやスタンスのイメージが形成されていきました。

はじめは探究活動に不安を示していた先生も「不安を含めてありのままを言い合ったからこそ合意形成できた」と多々納先生

 

課外活動で生まれた最初の探究生徒

探究活動を進める準備段階で「フィールド探究同好会」もはじまりました。

同好会でのミッションは「何か楽しいことをする」こと。しかしこのとき顧問を任された多々納先生には、どうしたら楽しむことができるのかが分からなかったといいます。

そんな先生の背中を押したのが、たまたま参加した自然体験ツアーで出会った、地域について熱く語る大人たちの存在でした。

刺激を受けた多々納先生、理科の教員ということもあり、生物室に転がっていた使われていない水槽で、学校の池で採れた生物を飼ってみることにしたのです。すると、水槽にいたエビをじっと見ていた数人の生徒が、自分たちで研究をはじめたというではありませんか。

 

生徒の姿を見た教員からは驚嘆の声が上がりました。しかし最も感動していたのは、多々納先生ご本人だったのかもしれません。

こんなドラマチックな展開を迎えた多々納先生も、当初は探究活動を他人ごとのように捉えていたと振り返ります。自ら体験を重ねていくうちに、先生自身が探究活動に巻き込まれていったのです。

やがて立ち上がった探究推進部の部長として探究活動を率いる立場になった多々納先生。探究活動の教材は先進校視察の中で見た事例を真似しながら、すべて自作したという熱の入れようです。

 

「Realize!」を合言葉に、探究カリキュラムも変化する

同校では現在、「Realize!」=気付く/実現する、をキーワードに探究活動が進んでいます。

1年次は(就職の不利有利、大学名といった固定概念から抜け出し)興味関心から進路を選択することを意図したキャリアパス探究。

それから、地域課題を入り口にSDGsの視点を取り入れて問題解決を目指す合意形成ワークショップを展開。

これらは当初、予め教員が考えた題材を与えたり、職種を入り口にしたり、ディベートをしたりと異なる方法を取っていたそうですが、試していくうちに「自分自身を軸にして対話的に進めること」を大事にするようになった結果、現在の2本柱に変わったといいます。

 

さらに2年次は、ゼミごとに分かれて興味関心を深めます。地域や進路、コンテストには「結果的につながればよい」というスタンスを徹底していることもあって、そのテーマは実にさまざま。文系、理系問わず70ものテーマが立ち上がり(個人で進める生徒も多く、地域に関わるものは20程度)を16人の先生で見ているそう。先生方には「伴走=併走+(生徒の力量に応じて)半歩前後」という関わり方を伝え、月1回全体で情報交換をしながら協力し合って進めています。

 

校内体制づくりのカギは「共通体験」と「ロールモデル」

探究活動を学校全体で進めていこうとする際に、多くの学校で課題となるテーマの一つに校内体制があります。なぜ同校では、こんなにも意思統一が図れているのでしょうか。

マイプロジェクトが生まれる体制をつくっている学校の共通点として考えられるのは、OECDが示す「見通し、行動、振り返り(AAR)」のサイクルを実践していることです。一方課題を抱える学校では、下記のSTEP.1ができていなかったり、STEP.2と3が逆転したりすることによって、体制を活かした実践にいつまでもたどりつけない事態が起きているように感じます。

 

同校の事例を振り返ると、共通体験やロールモデルの共有・形成を繰り返すことがポイントだったように思います。

先進校への視察で目にした生徒の姿。それから、教員同士の意見交換の場と探究の経験。

フィールド探究同好会で生まれた生徒の実践。

探究活動に奔走し試行錯誤する多々納先生の姿そのものも、教員にとってはロールモデルだったと言えるかもしれません。

上記のような共通体験やロールモデルの共有・形成によってSTEP.1のイメージができ、STEP.2がスピーディーに行われたのではないでしょうか。

 

「大学のない丹後という地域にとって高校は最高学府。だから可能性しかない」。

自分自身のコネクションを開発しようと、現在もさまざまな外部イベントに参加しているという多々納先生

活力を維持するには「遊び」が必要と語気を強めるように、きのこ狩りや磯釣りなどの遊びも全力で楽しんでいらっしゃるようです。

「安住の地である学校から離れ、挑戦することによってこそ校内外の味方ができる。何よりも失敗への耐性がつきました」。そう笑う先生の心に宿る意志こそが「探究マインド」なのだと感じました。

 

【お知らせ】弊団体が開催する「全国高校生マイプロジェクトアワード」にも、ロールモデルに出会う・発信するという意図があります。こちらも是非、ご活用ください!

 

(文責:NPOカタリバ 吉田 愛美)

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