総合的な探究の時間を学校全体で推進するポイントとは?[マイプロを育む「学びの土壌」Vol.4 ]
地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。
マイプロジェクトを実践した高校生たちがどのような環境や取り組みの中でプロジェクトを発展させ、学びを深めてきたかを紹介する「学びの土壌」シリーズ第4弾!
今回は静岡県立川根高等学校の池田哲朗先生に取材しました。
川根高校は静岡県榛原郡川根本町徳山にある小規模校です。近隣の中学校との連携や、県内外からも生徒を募集する「川根留学制度」など、地元川根本町をはじめとした近隣地域と連携しながら、地域とともにある学校として魅力化に取り組んでいます。
今年の3月に開催された全国高校生マイプロジェクトアワード2022全国Summitでは、川根高校から2プロジェクトが出場しました。
川根高校の総合的な探究の時間を担当されている池田先生に、どのような“学びの土壌”をつくっているのか、お聞きしました。
現状を「見える化」して、対話する
総合的な探究の時間は教科の授業とは異なり、各教科の先生たちが連携して行う横断的・総合的な学びの時間です。しかし、スクールポリシーの形骸化、学校現場の忙しさ等から、何のために総合的な探究の時間に取り組むのか、共通認識を持ちきれていないと感じている先生もいるように思います。
池田先生が川根高校に赴任された2019年度。川根高校は当時から「地域みらい留学*」の生徒を受け入れていましたが、池田先生の目には「とにかく生徒を集めよう」と焦って手を動かしているものの、何のために取り組むのかが明確になっていないように映ったといいます。
*地域みらい留学:都道府県の枠を越えて、地域の学校に入学し、充実した高校生活をおくること。
そこで川根高校の先生方が学校の何を魅力と感じているか、アンケートを実施。すると、ICT等の学習環境や公営塾等のハード面が魅力と感じている先生が多い一方で、授業・行事・生徒会や委員会、部活動といった、学校の中心的な取り組みを魅力だと感じられていない現状が明らかになりました。
※出典:2023年4月、online探究勉強会の資料
また、中央教育審議会の答申や学習指導要領に注目してみると「資質・能力」や「探究」といった言葉が頻繁に使用されています。しかし、川根高校のグランドデザインをみたとき、育成したい資質・能力が設定されていないことに気づいたそうです。現在は「スクール・ポリシー」の策定を通じて各校に設定が求められていますが、当時設定している学校はまだ多くありませんでした。
※出典:2023年4月、online探究勉強会の資料
そこで先生たちが魅力に感じていない教育活動を充実させると共に、川根高校として育成したい資質・能力をつくっていくことを決めました。
職員会議の3分で徐々に浸透させる
しかし先生方の多忙な業務の中で、打ち合わせの時間を設けるのは容易ではありません。そこで、池田先生は定例の職員会議で1回3分、A4両面1枚8スライドで校内の先生方に情報共有することから始めました。また、夏休みの8月、冬休みの12月の年2回に渡り、1~2時間の研修を実施し、育てたい資質・能力を議論し、決めていきました。
しかし、ただ話す場をつくるだけでは最終的なアウトプットを作りきることはできません。池田先生は、研修で出たアイディアから、原案を作成していきました。原案を基に対話を行うことで、話し合う論点が整理され、具体的な決定まで至る可能性が高くなります。限られた時間の中で行う重要なポイントではないでしょうか。
※育成したい資質・能力が追加され、完成したグランドデザイン
複数の教員で生徒への関わり方を見立て、
役割分担する
続いて、日々の総合的な探究の時間をどのように先生と連携しながら、学校全体で進めていくのかについて取り上げたいと思います。
総合的な探究の時間のコマ数は学校によって様々ですが、1年間1単位、1人の先生が15~30人程度の生徒を担当されているケースが多いようです。探究学習は生徒によって進捗が異なるため、サポートが必要なタイミングや内容も違います。なかなか進められない生徒に付きっきりになってしまった結果、他の生徒の様子がほとんど見られなかった、といった話もよく伺います。限られた時間・人手の中で、どのように生徒をサポートすればよいのでしょうか?
必要な生徒に適切なサポートを届けるために川根高校で行われている工夫が「毎週生徒に探究の進捗をフォームで提出させる」ことです。「自分の問い、進捗、現在の状況、前回の状況、更新日」等をGoogleフォームで提出させ、探究担当の先生が内容を確認し、生徒の現状を把握します。その後、各学年の探究担当者が集まって授業中に重点的に関わる生徒と関わり方を見立て、学年会議で共有することで、サポートが必要な生徒の取りこぼしを防いでいます。
※打ち合わせは時間割の中に入れ込んで、制限時間をつくることを推奨。川根高校の探究担当者会議は、開始当初4~5時間打ち合わせをしたこともあったが、1コマの時間内で実施するようになってから、自然と優先度の高い議題を話すようになったとのこと。
また、生徒の探究学習をサポートする先生方からは「目の前の生徒にどう関わればいいかわからない」という声もよく聞きます。探究学習の伴走は、知識や情報の補充、思考を促進する問いかけ、生徒の本音を引き出す傾聴など、様々な役割が求められます。すべての役割を一人の先生が行うのは簡単なことではありません。
しかし、先ほどご紹介した川根高校の取り組みのように、全ての先生が担当生徒以外の情報も共有し、関わり方を検討する機会があれば、どう関わればいいか相談することができます。また、先生間同士の役割分担ができるようになります。1人の生徒への関わり方を、担当の先生だけが思い悩む必要はありません。1人の生徒に複数の先生が関わる体制をつくると、それぞれの先生が得意なテーマ、関わり方を活かし合うことができ、各生徒への適切なサポートに繋がります。
先生同士で対話しながら
「探究を探究する」教員研修会
前述の通り、先生が連携しながら各生徒をサポートすることはとても重要ですが、それぞれの先生が探究学習に対する理解を深め、習熟度を高めることも必要です。しかし、「総合的な探究の時間」が必修化されたのは2022年4月。初めて取り組む先生も少なくありません。自分自身が体験したことがない、授業として実施したこともない探究学習に抵抗や不安を感じる先生も多いのが現状ではないでしょうか。
川根高校では年2回、全教員が参加する研修会があります。今回は夏休みの終わりに実施された回を、視察させていただきました。テーマは先生が「探究を探究する」。他者の視点を用いながら、自身は気づいていないけど実は探究的に学んでいることを言語化するワークや、生徒が行う問いづくりを実際にやってみるワークが行われていました。池田先生は「先生方も探究マインドを持って、探究を楽しんでもらいたい」といいます。
中央教育審議会の答申、『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について~「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~の中では、「個別最適な学びとの往還も意識しながら、他者との対話や振り返りなどの機会を教師の学びにおいて確保するなど、協働的な教師の学びも重視される必要がある。」(41ページより引用)と記されています。多くの教員が集まる打ち合わせの時間を設けることは難しいと思いますが、川根高校のように長期休業期間を活用しながら、年に1~2回からでも実施してみるのはいかがでしょうか。
「学校全体で取り組む」体制をつくるには、様々な工夫と時間が必要です。しかし、先生方が互いに支え合い、学び合いながら、探究を探究することができれば、とてもやりがいのある活動になります。本記事で紹介した川根高校・池田先生の事例が、各学校で探究を担当する先生の一助になればと思います。
※川根高校、教員研修会の様子
(文:マイプロジェクト全国事務局 内海博介)
■池田先生がゲストの勉強会アーカイブ動画を公開中!
高校生の探究・プロジェクトに伴走される先生方・教育関係者の方に無料で利用できる「パートナー登録制度」を用意しています。
登録すると、池田先生に登壇いただいた勉強会のアーカイブ動画を見られます。また、全国高校生マイプロジェクトアワード2022全国Summitに出場した様々な高校生の発表・対話動画をみることができます。(池田先生が伴走された生徒の発表もあります)
▼パートナー登録フォーム
https://myprojects.jp/partner/form/
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■マイプロジェクトアワード2023エントリー受付中
全国高校生 MY PROJECT AWARD2023のエントリーを受付中です。
12月〜全国約20地域+オンラインで地域Summitを開催します。
ぜひ、高校生にご案内ください。
▼エントリー受付期間
11/1(水)〜12/8(金)17:00〆
▼エントリー方法
下記公式webのエントリーフォームページから、
リフレクションフォームの提出をすることでエントリーとなります
▽全国高校生マイプロジェクトアワード2023公式web
※エントリー期間や方法などが一部異なるエリアがございますので、webの募集要項・各地域Summitページ(https://myprojects.jp/#area_summit)を必ずご確認ください
▽アワード2023の全体の流れ、 昨年度からの変更点
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