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マイプロジェクト

地域Summit

2021.2.5

教員インタビュー 「新潟の未来をつくる 前兆からムーブメントへ」

1万人以上の高校生がマイプロジェクト(以下、マイプロ)に取り組むようになった2021年。

これは単に動き出す高校生が増えたというだけではない。

彼らがマイプロに取り組める環境を創る大人や応援者も広がったということでもある。

高校生たちがそれぞれのマイプロに取り組む時、教員もまた生徒の学びをどうサポートできるかという問いに向き合っている。

新潟で教員をする宮崎芳史先生もその1人だ。

数年に渡ってどんな取り組みをしてきたのか、その中で感じた変化とこれからについて聞いてみた。

 

 

宮崎(以下、敬称略):「マイプロ不毛の地を耕してきた感覚です。何もないところからやってるから希望しかないですよ」

そう笑いながら語る宮崎先生は、旅行会社勤務を経て新潟で高校教員になるという異色の経歴を持つ。

全国高校生マイプロジェクトアワードには2017年度から生徒を送り出し、2019年度には生徒を全国Summit(全国大会)に導いた。

現在は新潟県立新潟南高等学校で教員をしながら、オンラインで高校生のマイプロをサポートする『NIIGATA高校生マイプロジェクト☆LABO』というイベントを夏から継続して開催するなど、積極的に活動している。

なぜこんなにも熱く、深くマイプロに取り組むのだろうか。

 

なぜ「マイプロ」なのか

マイプロに関わるようになった原点は大学時代、環境問題を学ぶ中で辿り着いた「豊かさとは何か?」という問いから始まった。構造的な経済成長の限界が見えてくる中で追い求めたのは、経済的な意味だけではない豊かさの価値。その価値は、ローカルの中にこそあると感じる中で、将来は地域活性化に携わりたいと考えるようになり、卒業後は旅行会社に勤務した。教育旅行営業に配属され、修学旅行の企画や添乗業務を担当し、学校のニーズ・課題に対して旅行を通じた解決策を提案したこともある経済と地域の豊かさを両立する難しさや力不足を実感し、多くの壁にあたりながら、ビジネスの現場で成果に追われる5年間をやりきった。

その後、教員へ転職。地域活性化につながる「地域・社会への当事者意識を持つ人を育てたいという考えや、民間企業での経験を活かせることもあり、地域の大人と関わりながら社会で必要な力を育成するキャリア教育に力をいれるようになる。

宮崎:「地域とつながるからこそ、真のキャリア教育になると思っていて。実社会で学ばないと机上の空論でしかないし、本当の意味でアクティブな学びにはならない。どうやって実社会とつながるのかを考えた時に、一番身近なフィールドは地域だったんです。地域とつながるキャリア教育は地域活性化にもつながる。それは自分の一番やりたいことでもあると思いました」

 

教員となって数年後、新潟県立佐渡中等教育学校へ異動になった頃に出会ったのがマイプロだった。

当時、社会への当事者意識や、壁を乗り越える力をどう育てられるかと考えていた宮崎先生。しかし、そこで目にしたのは大きなギャップだった。

進学校にもかかわらず志願倍率は割れており、意欲的な生徒ばかりではない状況。時間を守る、返事をするといった基本的なことができない生徒も多くいた。

そんな学校で、宮崎先生の心を揺さぶる出来事があった。

宮崎:「部活の子を隣の学校に練習へ連れて行こうとしたら泣いて嫌がったんですよ。ボロボロ涙を流して嫌がって…何でそんなに嫌なのかを聞いたら『私たち嫌われてるんです』と言うんです。自分の中で火がついた瞬間でした。担任をしていた生徒でもあったので、この子たちをこのまま卒業させたくないと思いました。どうしたら、自分と学校に自信と誇りをもって卒業させられるだろうと」

 

このことをきっかけに、宮崎先生は以前にも増して学校内外でキャリア教育のイベントを積極的に企画するようになる。

他団体と協力して地域で活躍する大人と話す場を設けるなど取り組みを重ねた。その中で、地域おこしのアイデアをプロジェクトにする授業がマイプロにつながっていくこととなった。有志の生徒を募ってみると、地元や佐渡について課題意識を持つ生徒が現れ、実際にイベントを開くような生徒も出始めた。

こうして、地域おこしだけに止まらない、生徒の「好き」や「やりたい」という熱のこもったマイプロが誕生していった。

キャリア教育にもさまざまなアプローチ方法がある中で、マイプロに注目した理由はどこにあるのだろうか。

宮崎:「『マイプロは究極のキャリア教育』という言葉が1番腑に落ちたんです。キャリア教育で目指してきた社会への当事者意識や社会で求められる力が育っていくことを実感することができました。また、自分自身が教育現場で『豊かさ』を追っていく中で、自然の豊かさとか人の豊かさだけではなく、自己有用感とか自己決定も大事だと実感するようになりました。キャリアプランを描くだけで終わらずに、自分で人生を創っている、自分が社会を創っているという感覚も、個人・地域・社会の豊かさにつながる大事な要素だと思うんです」

 

▲マイプロジェクトアワード2019の全国summitに出場した佐渡中等教育学校のプロジェクト「おっちゃん祭〜つまみでつなぐ佐渡のおっちゃんと若者〜

 

学びの共有が仲間を生む

教員としてマイプロを生徒たちに届けるまでには苦労も多い。「共に授業やプログラムを設計する協力者をどのように見つけるか」「探究学習の先進事例とどう出会うか」という課題にぶつかる人は多いだろう。

新潟県立佐渡中等教育学校で生徒のマイプロを支えてきた宮崎先生もこの壁にぶつかった。

キャリア教育や探究学習の取り組みがまだ少なかった新潟で、学校や教員にどのように働きかけていったのだろうか。

 

校内では教職員向けに勉強会を開くなどして、宮崎先生の思いやプログラムの目的を共有し把握してもらうことから始めた。

さらに宮崎先生は、マイプロジェクト事務局が「パートナー」と呼ばれる教育関係者向けに開催する『online探究勉強会』にも参加することに。2019年度は開催された全ての回に参加したというから驚きだ。

そこでは、探究学習を学校全体で取り組んでいる高校の事例共有や、参加した教員同士での話し合いが行われた。

宮崎:「この場の存在はすごく大きかったです。学校や先生方から新たに気づかされることも多く刺激をもらいました。例えば、アクションを学びに変えるには仕掛けが必要なんだと気づきました。それまでは、机上の空論じゃなくて実社会で課題に触れるからこそ学びになるんだと思ってやってきました。だけど、学びに変えるには振り返りが重要で、アクションをすれば自動的に学びにつながるわけではない。これは、当たり前のようですが、大きな気付きでしたね。それと、自分はその場に必ず誰かを連れて参加するようにしていたんです。一緒に見て学びを共有することで、共に未来を目指せる仲間ができ、モチベーションが上がっていくのを感じました。学び続ける、挑戦し続けることが、教員として自分が示すべきことなんじゃないかなっていう使命感にも駆られるようになって。もっとこういう風にチャレンジしてみようという変化が生まれて行きました」

 

こうしてつながった教員は、共に新潟でマイプロを応援する仲間となった。

新型コロナウイルス感染症の拡大や自身の転勤が重なった昨年だったが、立ち止まることはなかった。

『online探究勉強会』へ参加した教員や、新潟でキャリア教育支援をしているNPOと共に実行委員を立ち上げ、夏には、オンラインで高校生のマイプロをサポートする『NIIGATA高校生マイプロジェクト☆LABO』を企画。約半年間でマイプロの立ち上げから実践後の発表まで行った。学びを共有してきた実行委員の教員・コーディネーターたち教員たちの所属校から参加者を募ることで、その後の生徒の活動に伴走し続けることができるような仕組みに。イベントはオンライン開催にすることで、アドバイスをくれる県内外の大人や他校の生徒との交流も図った。

生徒、教員、学校の垣根を超えて探究活動を共に高め合うコミュニティが、新潟で形づくられようとしている。

▲昨年開催した「NIIGATAマイプロジェクト☆LABO」の様子

 

マイプロから見えた生徒と新潟の変化とは

 

マイプロに取り組む高校生たちを見守り、自身も環境づくりに尽力してきた中で新潟に変化の兆しが見られるようになった。

2019年には新潟から4プロジェクトだったマイプロジェクトアワードのエントリー数は、2020年には21プロジェクトになった。佐渡中等教育学校で狼煙を上げた宮崎先生の熱意は広がり、今では県内10校から教員、生徒が『NIIGATAマイプロジェクト☆LABO』へ参加するまでになった。

生徒の学びに活きていると実感することもあった。

宮崎:「赴任当初、泣いていたあの生徒たちの学年から『学生だからできない、ということはない』と言ってくれる生徒が現われました。その生徒は大学に進学後、佐渡に帰ってきた時にも『佐渡は私にとって学びの場なんです』と話していました。そういう変化を創れてるって、すごいことだなと思いましたね。きっと彼らは佐渡への思いはあるけど、自分じゃ何も変えられないというジレンマを抱えていたのかな。そこにマイプロの仕組みが出来たことで、何かやりたい、変われたということにもつながったのかもしれません。この変化を見てきたからこそ、本当に日本中どこの学校でも仕掛けさえうまくいけば必ず立ち上がる生徒は現れるはずだって思えるんですよね」

 

変わったのは生徒だけではないと言う。

宮崎:「誰よりも自分が苦しんでいるし、誰よりも自分が成長しているし、そして誰よりも自分が楽しんでいると感じます。この楽しいという気持ちはずっと大切にしたい。楽しいからこそ頑張れる、楽しいからこそ仲間が増える、そう感じる場面はたくさんありました。自分自身はとても凡庸なんだけど、マイプロを通して輝いている人たちと次から次へと出会って、たくさんのことを吸収できました。人や地域はもちろん、自分のためにも動き続けたいと思えますね」

 

この変化を一瞬のものには終わらせない。

新潟を「未来を創る力を育む教育先進県」にするというのが宮崎先生のマイプロだという。

宮崎:「今後は学校の垣根を越えたコミュニティを組織として継続、発展させていきたいです。今まで活動してきた中で、『未来を創る』という言葉を伝えてきました。一人一人が自分の未来を創れることは、教育だけではなく新潟という社会にとっても大切なことだと思います。マイプロにはそういう価値があるということを、今後は地域とももっと共有できるといいですね。関わる人全員が参加してよかったと思えるような『All Win』の関係性を今後も目指していきます」

 

教員としてマイプロや探究学習をサポートすることは簡単ではない。生徒の学びのために何ができるのか思い悩んでいる教員は、多くいるだろう。教員になって5年、不毛の地を開墾するべく活動を積み重ねて来た宮崎先生に、これからマイプロに取り組もうとしている教員へのメッセージを聞いてみた。

宮崎:「マイプロに参加する生徒たちには『自分の人生舵を取れ』って伝えているんです。自分がなりたい自分になる、自分が創りたい未来社会を自分自身でつくる、そんな高校生に必ず出会えるはずです。今は目の前の生徒がそう見えなかったとしても、マイプロを通じて、気がつけば変わっているんです」

 

▲新潟県立佐渡中等教育学校で行われたワークショップにて

 

未来に向かって挑戦し、問いや課題を見つけては拾い、向き合う。そして何より楽しそうに学び続ける。宮崎先生のそんな姿勢が求心力となり、新潟にムーブメントが起こり始めている。

これはまだ前兆。つくりたい未来に向かってたくさんの新芽が芽吹いていけるように、宮崎先生は今日も、新潟の地を耕し続ける。

 

(取材:末本晴香 ※インタビュー時は2020年)

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