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マイプロジェクト

地域Summit

2021.7.7

学校マイプロを紐解く①/ー多様な自己を自ら発見するー島根県立津和野高等学校

学校発の探究・マイプロジェクトが当たり前になりつつある今、その本質はどこにあるのか。

このシリーズでは、探究・マイプロジェクトに取り組む高校生を支援するパートナーを対象に月1回開催されているonline勉強会に登壇いただいた事例提供校の話題を元に「学校マイプロとは何か」を紐解いていきます。

島根県立津和野高等学校。全校210名のいわゆる「小規模校」はこれまでも全国の注目を集めてきました。

県外からの入学者が年々増加し、2年前には東京大学の推薦入試合格者も輩出。

全国高校生マイプロジェクトアワードでも全国大会の常連校です。

今回はそんな島根県立津和野高等学校の教員とコーディネーターの2名にお話を伺いました。

 

グランドデザインの軸は「総合的な探究の時間」

津和野高校には3年間を通して育む生徒像のグランドデザインがあります。

コミュニケーション力、表現力、非認知能力(寛容な心、挑戦する意欲、当事者意識、行動力、広い視野)といったキーワードが並ぶなか、津和野高校4年目、英語科で1年生担任の山根先生は「総合的な探究の時間(以下、総探)がその軸」だと断言します。

 

津和野高校の総探のイメージは「山登り」。3年間をかけての「深い自己理解」を目指しています。

1年次に取り組む、ブリコラージュゼミでは、年3回、全32講座の中から、自分の興味が少しでもあるゼミに参加します。

地域の人と出会う仕掛けとして、トークフォークダンスのようなコミュニケーション、出会いの場にも参加。

まずは様々なものに触れることから自分の興味を知るのです。

そこから2年次にプロジェクト活動。「現状」と「理想」のギャップを埋めるためのアクションからプロジェクトを考えます。

自分でやりたいプロジェクトが見つからなければ、町民から発案された既存のプロジェクトに参加することも可能ですが、多くの生徒が自分のやりたいプロジェクトを考えるようで、昨年度は28のプロジェクトが進行しました。また、既存のプロジェクトに取り組むうちに、自分のテーマを見つける生徒もいたとのこと。

総探の集大成となる3年次に行われるのは、オープンスクールでの発表です。表現方法は自由。中学生という相手がいることで、何を発信するかが考えやすくなっている様子。

 

振り返りが学びの肝

津和野高校の総探の特徴として、いずれのアクティビティにおいても振り返りの場を大事にしている点が挙げられます。

「事前に考えていたこと」「やったこと」「思ったこと」など振り返り内容は至ってシンプル。同じ項目を何度も言語化する過程で、生徒は自分をメタ認知していくのだといいます。

長めの文章が書けない生徒ももちろんいます。その中でも大切にしているのは「自分との関係性を明らかにすること」。

生徒の意識変容を一番大事にするからこそ、「つまらなかった」「やりたくなかった」でも否定はしません。

その中での教員の役割は「問いかけること」と「耳を傾けること」。ただただ問われていることを読み上げることで書き出せる子もいれば、伝えられる相手がいることによって言葉にできる子もいる。言葉での表現が難しければ、写真や絵や音楽など、他の選択肢を与えることもできます。

 

それでも「探究を進路に結びつけない」理由

「進路のテーマにつながる思いは自身のこれまでの行動や選択の中にある」。

振り返りの中で経験したことを抽象化し、意味づけすることで進路を見つけた卒業生もいるように、津和野高校での探究は生徒たちの進路に確実につながっているように見えます。

それでも「進路をゴールに探究を進めるのは違う」と山根先生は断言します。

 

「純粋な探究にならないんですよね。初々しさ、伸び伸び感、面白さがなくなる」。そう話す山根先生が信じているのは、全ての生徒が自分の興味・関心を必ず持っているということ。だからこそ、総探の目的に置いているのが「自分を知ること」なのだと思います。

 

探究を進路に結びつけないということは、つなげようとしなくても勝手につながる、ということなのかもしれません。「総探にはさまざまな「べき論」がつきものだが、そんなものはない。いろんな生徒がいるのだからこそ、いろんな探究があってよいはず。そのうち探究そのものが面白いことに生徒自身が気づく」と山根先生。

大人も一緒に探究を楽しむ姿勢が、生徒たちのそんな姿を後押ししているようです。

 

津和野高校探究における3つのポイント

今回の津和野高校の事例で、私自身がポイントと感じたのは下記の3点です。

 

①経験というタネをまき続ける

探究のスタートにおいて、生徒自らの経験を起点にしていることが1つ目のポイントです。その起点は必ずしも探究のスタートになるとは限りませんが、「発芽しない」生徒を置き去りにするのではなく、新たな経験の機会を与える続けることで、生徒たちの心が反応する瞬間をつくり出しているように思います。

 

②何度も自己を振り返る

さらに、経験したものを何度も何度も振り返っていることも特徴の1つ。問いかけを毎回同じものとし、負の感情を含めた素直な振り返りを求めているのは、より深く自己を知ることを目標にしているからではないでしょうか。また「習慣」として振り返ること自体が当たり前になるうちに、振り返り自体がうまくなり、メタ認知につながっているように思いました。

 

③伸びる先を狭めない

そして、探究の出口(進路やキャリア)を意識させないという点も徹底しているように思います。目標を意識してしまうことで他の選択肢や可能性が狭まってしまうと、探究の持つ「自由さ」や「多様性」(=探究の楽しさ)が損なわれてしまうということなのかもしれません。

 

 

経験というタネをまく。タネから芽が出ないことも往々にしてあるが、それでもタネをまき続ける。そこからやっと、興味・関心の芽が出る。興味・関心の芽が伸びる先を敢えてコントロールしないことで、枝は縦横無尽に伸びていき、やがて自身のキャリアに(勝手に)つながることがある。しかしより大切なのは、根っこの部分=自己を発見することーーー

津和野高校ではまるで植物が育つかのように、探究が進んでいるのではないでしょうか。

 

(文責:NPOカタリバ 吉田 愛美)

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