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マイプロジェクト

地域Summit

2023.7.8

自発的なマインドを育てる“教師から教えない”探究活動[マイプロを育む「学びの土壌」Vol.2 ]

 

 

地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。

 

マイプロジェクトの活動内容の発表や、次への一歩を考える学びの祭典「全国高校生マイプロジェクトアワード」が2013年に初めて開催され、10年を迎えました。また今年の4月からは高等学校での「総合的な探究の時間」が本格実施となり、全国の高校生が探究学習に取り組んでいます。

 

しかし、認定特定非営利活動法人カタリバが行った教員向け実態調査では、探究学習を推進している担当者の95%が「課題を感じている」と回答しています。

 

※詳細記事:https://www.katariba.or.jp/news/2023/03/20/40481/

 

マイプロジェクトを実行する高校生たちはどのようなプロセスを経て、学びを深めていくのか。また、プロジェクトや学びを深めていくうえで重要となる周囲の関わりとは何か。

 

全国高校生マイプロジェクトアワード全国Summitに出場した高校生や先生方へのインタビューを通して、マイプロを育む「学びの土壌」を発信するシリーズ第二弾。

 

 

今回は第一弾で取材した高田悠希さん(前回記事はこちら)が所属する群馬県立高崎高等学校の物理部顧問と、探究学習の授業を担当している岡田直之先生に取材しました。

 

※7月25日(火)18:00より、岡田先生をゲストに招いたonline勉強会を開催します。申込はこちら

 

高崎高校は1897年から続く地域の伝統ある進学校。文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校で、1学年7クラス280名程度の生徒が在籍しています。

 

物理部ではサッカーをするロボットの製作、プログラミング教室に講師として参加、VRでカルタができるゲームの開発など、多様なプロジェクトが常に進行しています。

 

岡田先生はどのような“学びの土壌”をつくっているのか、お聞きしました。

 


 

「与えられた課題をこなす」から

「必要な知識・技能は自ら習得する」への転換

 


 

岡田先生が物理部や探究の授業で目指しているのは「学びの生態系」だと言います。岡田先生の言う「学びの生態系」とは、質の高い課題研究や学びが自発的、継続的に生じる環境のこと。しかし、自発的や継続的に学ぶ環境をつくるのは容易なことではありません。どうすればそのような環境をつくることができるのでしょうか。岡田先生は「生徒のマインドセットの転換」が重要だと語ります。

 

「これまで培った『与えられた課題をこなす』マインドセットを転換させることが重要です。『教わっていないからできない』ではなく『課題解決に必要な知識・技能は自ら習得する』『使えるものは何でも使う』『高校生の枠にとらわれない』といったマインドを手に入れてほしいと考えています」(岡田先生)

 

 


 

小さく、何度もアクションのサイクルを回す

 


 

そのため高崎高校では、マインドセットの転換を促すために、様々な取り組みが行われています。

 

一つ目の特徴は小さなアクションのサイクルを何度も回すようなカリキュラムが設計されていることです。高崎高等学校の23年度1年次カリキュラムでは4回(6月末、8月末、10月末、1月末)の発表機会があります。

 

早い時期に発表会でフィードバックを受けて改善するからこそ、軌道修正する余白が生まれ、試行錯誤することが可能です。一年かけて1サイクル回っても、活動で得た気づきや学びを次に活かすことができないでしょう。

 

物理部でも頻繁に外部のコンテストに出場することで、常に発表機会を意識しながら活動に取り組んでいます。

 

 


 

学習の方向づけを支援するツール

 


 

また、アクションのサイクルを回すことは重要ですが、先生が介入しすぎると生徒自身の試行錯誤は促進されません。しかし、ただ生徒に委ねても何をしていいかわからず、行動できない生徒が生まれてしまうため、サポートする教材が必要です。

 

高崎高校では「課題研究ロジックシート」で、探究したい問いや仮説、その検証方法を整理し、仮説が検証できる計画になっているかを確認しています。また、探究の型ごとに作成した「発表ルーブリック」を活用して、発表会の際は生徒同士でフィードバックをする機会も作っているそうです。

 

大まかな思考の仕方や求められているものを必要な分だけ提示することで、生徒の試行錯誤する余白を保ちつつ、学習の方向づけのバランスを取っているのだと思います。

 

▼課題研究ロジックシートの記入例

 

※その他の記入例

 

▼発表ルーブリック(3種類)

学術型:「素朴な疑問」を科学的に探究する「学術型」の課題研究

開発型:データサイエンスの知識・技能を活用し、AIアプリやIotデバイス等の実装を目指す「開発型」の課題研究

提案型:「社会問題」の解決に向けたアイディアを想像する「提案型」の課題研究

 

※生徒の研究活動に合わせた型が整理されており、それぞれの生徒が学びを深めやすい仕組みになっています。

 

高崎高校では一貫して「生徒が自発的に取り組む」環境づくりにこだわっています。オリエンテーションの際にも「先生もわからないし、教えられない」と生徒に伝えて、自発的に動くことを求めています。

 

「当然生徒ごとに進度や取り組む姿勢にバラツキは生まれます。毎時間、着々と進める子もいれば、発表前にギリギリで準備する子もいますが、それで構いません。発表会というゴールはこちらで設定しますが、プロセスは生徒に委ねています」(岡田先生)

 

学校によっては、生徒の意欲を育むために、先生方が積極的に関わる場合もあるかもしれません。もちろんそれが必要な場合もあるかと思います。しかし、生徒の力を信じ、委ねていくことで、生徒の自発性を最大限に引き出せる場面があるのだと思います。

 


 

失敗や試行錯誤できる時間の余白を確保する

 


 

単位数にも特徴があります。高崎高校では3年間で6~7単位を課題研究(総合的な探究の時間)に当てています。

 

「生徒が失敗したり、テーマを変えたりできる余白をつくるのがポイントです。自発的な学びを促すには、生徒に時間を返すことが最も大切だと思います。」(岡田先生)

 

十分な時間を確保できずリカバリーする機会がなければ、生徒は「(時間内で)できそうなこと」をテーマとして選びやすくなってしまうでしょう。それでは本当に取り組みたいテーマや、答えのない問いにチャレンジできる環境とは言えないのかもしれません。

 

▼3年間の課題研究の流れ(令和4年度)

 

※カリキュラム

■理型・文型コース

1年生:3単位「学術型」の課題研究

2年生:1単位「提案型」の課題研究 ※令和5年度から2単位に変更(画像内のSCⅡ科目を理型・文型コースの生徒も履修)

3年生:1単位「自身のキャリア」をテーマとした課題研究

 

■SSHコース

1年生:3単位「学術型」の課題研究

2年生:3単位「学術型」と「開発型」の課題研究

3年生:1単位「学術型」と「開発型」の課題研究

 


 

進学校ならではのストレッチする機会

 


 

高崎高校では物理部の生徒やSSHコースの生徒を中心に、外部のコンテストに積極的に出場しています。岡田先生がポイントにしているのは「あえて上位入賞を目指す」こと。ポテンシャルはある生徒だからこそ、適切なストレッチゾーンを見極め、機会を設定することが、生徒たちが自分で自分の力を伸ばそうとするスイッチになります。

 

「例えば『全国物理コンテスト 物理チャレンジ』に出場する場合、コンテスト当日の7月末時点で実施している授業の内容だけでは高2は問題を解くことができません。問題を解くためには、自ら先の範囲を学んだり、誰かに教わりにいく必要があります。必要であれば自ら学べばいい。そういった機会が『高校生』という枠組みを外すことに繋がっていくのです。」(岡田先生)

 

 

生徒が高い壁に立ち向かおうとする時、どうしても何かサポートしてあげたいと思うことが多いと思います。しかし岡田先生から教えにいくことはしないそうです。

 

私から生徒にやり方は教えません。生徒からプログラミングの使い方を聞かれても『これを使えばできるよ』と説明資料のリンクを共有するだけ。こういった関わりをしていると、生徒は自分で資料を読み込んで、できるようになったり、詳しい先輩に教わりにいったりするようになります。」(岡田先生)

 

自分から周りを頼りにいけるようになると、探究は前に進みますが、身近に頼れる人がいないこともあります。そういう時こそ、学外の方との繋がりが重要です。高崎高校物理部ではメッセージアプリを活用し、大学の先生、地元エンジニアの方々、地元記者、県庁職員等と繋がり、先生を介さずとも生徒が直接相談できる環境を整えています。

 

また、外部コンテスト以外にも、テーマ設定の段階でも生徒にストレッチをかけます。

 

「テーマ設定の序盤では、生徒は自分のできそうなテーマや予定調和なテーマに落ち着こうとするので『本当にそんなことがやりたいの?』『今持っている知識・技能で何とかなるテーマは高崎高校では求めてないよ』とコメントすることもあります。」(岡田先生)

 

生徒の力を見極めてあえて高いハードルを課すことで、本当に取り組みたいチャレンジングなテーマを探すことに繋がっていきます。

 


 

授業・部活動・学校行事も

共通のスタンスだから文化になる

 


 

高崎高校・岡田先生の取り組みは、生徒自身のブレーキを外し、自発的に成長していける環境をつくっています。高崎高校では総合的な探究の時間だけでなく、部活動や文化祭等の学校行事も生徒に委ねているそうです。学校の活動全般を通して、生徒に委ねるスタンスが一貫しているからこそ、自発的に動くことが当たり前になり、マインドが変わっていくのかもしれません。

 

最後に、岡田先生からいただいた全国の先生方・教育関係者へのメッセージで本文を締めたいと思います。

 

「探究やマイプロジェクトは『最も素直な学びの形』。本来、学びに分野やカリキュラム、高校生の枠は関係ないのではないでしょうか。自由と時間を生徒に返してあげれば、驚くような取り組みをする子が出てくると実感しています。『ちょっとまじめな遊び』のような感覚で、探究やプロジェクトを楽しみ、生徒も先生も「ワクワク」できる学校が増えることを願っています」(岡田先生)

 

 

次回は8月末に更新予定です。全国高校生マイプロジェクトアワード2022にて、ベスト オーナーシップ賞を受賞した坂口貴哉さんのインタビュー記事を掲載します。

 

(文:マイプロジェクト全国事務局 内海博介)

 


 

■7/25(火)18時、岡田先生をゲストに招いた勉強会を開催!

 

マイプロジェクト事務局では、実践型の探究学習やマイプロジェクトを進められている全国の団体や教員のみなさまと、onlineで学び合う勉強会を開催しています。

 

7月の勉強会は岡田先生がゲストの「進学校における、生徒の可能性を最大化するマイプロジェクトの取り組み」をテーマにした会です。

 


ご興味ある方はこちらからお申込みいただければと思います。
※後日、アーカイブ動画をパートナー登録者向けサイトに掲載する予定です。

 

 

■パートナー登録者向けサイトにて岡田先生が伴走した生徒の発表動画を公開中

 

高校生の探究・プロジェクトに伴走される先生方・教育関係者の方に無料で利用できる「パートナー登録制度」を用意しています。登録すると、全国高校生マイプロジェクトアワード2022全国Summitにて行われた、高田さん(岡田先生が伴走した生徒)をはじめ、出場した様々な高校生の発表・対話動画をみることができます。

 

▼パートナー登録フォーム
https://myprojects.jp/partner/form/

 

▼「2023年度マイプロジェクトパートナー登録」の詳細
https://myprojects.jp/partner/

 

▼パートナー登録をすることで、提供できるサービス
 ①探究・プロジェクトの実践支援に活用できる「探究ガイドブック」の閲覧
 ②各地のパイオニアに学び、登録者同士で交流できる「オンライン勉強会」への参加
 ③過去事例を閲覧できる「勉強会アーカイブ動画/高校生の発表事例動画」

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