LOADING

LOADING

マイプロジェクト

地域Summit

2023.7.6

プロジェクトを深めた学び方と意欲を育む他者の可能性とは?[マイプロを育む「学びの土壌」Vol.1 ]

 

 

地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。

マイプロジェクトの活動内容の発表や、次への一歩を考える学びの祭典「全国高校生マイプロジェクトアワード」が2013年に初めて開催され、10年を迎えました。また今年の4月からは高等学校での「総合的な探究の時間」が本格実施となり、全国の高校生が探究学習に取り組んでいます。

 

マイプロジェクトを実行する高校生たちはどのようなプロセスを経て、学びを深めていくのか。また、プロジェクトや学びを深めていくうえで重要となる周囲の関わりとは何か。

 

全国高校生マイプロジェクトアワード全国Summitに出場した高校生や先生方へのインタビューを通して、マイプロを育む「学びの土壌」を発信していきます。

 

 

シリーズ第一弾は2023年3月に開催された全国高校生マイプロジェクトアワード2022全国Summitにて、マイプロジェクトアワード特別賞を受賞した高田悠希さん。

 

横断歩道、駅のホームなど、様々な危険をAIによって検知し、音声で知らせてくれる「みちしる兵衛」を開発し、環境整備の不十分さによる視覚障害を持つ方々の事故減少を目指しています。

 

高田さんはどのようにプロジェクトを進め、学びを深めていったのでしょうか。

 


 

ニュースから自分の地域を調べたことで、課題が自分ごとに

 


 

 

――マイプロジェクトに取り組むに至った経緯を教えてください。

 

小さい頃から、何かを作るとか、物事の仕組みを見たりするのが好きで、レゴやマインクラフトを使って遊んでいました。高校に入学すると、物理部の先輩たちがロボットをつくっている姿を見る機会があって、面白そうだなと思って入部しました。

物理部では何か自分でテーマを決めて研究する活動があって、それがプロジェクトを始めたきっかけです。

 

――どのようにプロジェクトのテーマを決めたのですか?

 

元々視覚障害者の方々の事故をニュースで目にしてきて、危険だと思っていました。テーマはどんなものでもOKだったので、どうせやるなら社会の課題を解決することをしたいなと思って、視覚障害の問題に焦点を当てました。

 

自分が住んでいる地域ではどうなのかを調べてみると、通学路の点字ブロックがはがれていたり、ホームドアがある駅がほとんどなかったり。実は視覚障害者の方にとって、とても危ない環境だったんだと気づきました。それから、この課題を自分ごととして捉えるようになり、解決したいと考えるようになりました。

 

――その課題意識からどのようなプロジェクトを考えたのですか?

 

視覚障害者の方が使用する白杖に画像認識AIとカメラを取り付けることで、横断歩道、駅のホームの線路など、様々な危険をAIによって検知し、音声で知らせてくれる白杖をつくっています。

 


 

自分の行動を後押ししてくれる大人の存在

 


 

――プロジェクトはどのように進めていったのでしょうか?

 

白杖にカメラを取り付け、実際に街中を歩いて横断歩道や駅ホームなどを白杖視点で撮影し、データセットを作成しました。その後、企業や研究者の方の協力を得て、白杖の試作品をつくり、視覚障害者の方に実際に使ってもらって意見を伺いながら改良を続けています。

 

  危険を検知できるかテストしている様子

 

――「物理部は自主的に活動を進めることが基本方針で、先生方からはほとんど教えない」と聞きました。

 

先生はやり方を教えてくれるというよりは、外部の人・団体を繋いだり、情報共有をしてくれたりします。

視覚障害を抱える方が集まる団体にメールする時、「本当に連絡していいのだろうか」と不安だったのですが、先生が「やっていいんだよ」と言って後押ししてくれたことはとてもありがたかったです。送ったメールに真摯に返事をくれる方がいて、それは本当に嬉しかったですね。

 

――プロジェクトを進める中で、大変だったことはありますか?

 

基本的にスムーズにいくことはないです。参考にする情報は英語や中国語で書かれていることがあって読むのが大変でした。AIやプログラミングについては独学で身に着けていきましたが、わからないことが多かったです。うまくいかずに、デバイスを一から作り直したこともありますし、ほぼ毎日何かの課題にぶつかっています。

 

しかも「本当にできるのか?」「答えはあるのか?」という不安もありました。この不安は今でも慣れないし、怖いです。

 

――それでも諦めずに続けてこれたのはなぜでしょうか?

 

視覚障害者の方に試作品を実際に使ってもらった時「本当に実装してほしい」と言われたことが大きかったと思います。それまでは「高校生が作ったものが商品化されるなんてあり得ない」と思っていましたが、この言葉をもらってから本気で作りたいと思うようになりました。

 

実際に自分が作ったものを誰かに使ってもらえることは、とても嬉しいです。

 

――プロジェクトに取り組んできた今、視覚障害者の課題に対して思っていることはありますか?

 

視覚障害者の方や研究者と関わる中で、目の前の一人を助けるデバイスを作るだけでは不十分だと感じるようになりました。本当に社会で役立つものにするには、導入可能な「システム」を作る必要があると考えています

 

元々、このプロジェクトを始めたきっかけは「視覚障害者の方にとって、この地域が危険だ」と思ったことなので、この課題には今後も取り組んでいきたいです。

 


 

マイプロジェクトアワードは

「多様なモノサシで、多様な学びを認めあえる場」

 


 

 

――全国高校生マイプロジェクトアワード2022に参加しましたが、率直にいかがでしたか?

 

地域の発展を目指してバイトを活用したり、着物の魅力を発信したり、色々な活動をしている高校生がこんなにもいるんだと驚きました。

 

これまで様々なコンテストに出ましたが「何の役に立つのか?」とか「何が新しいのか?」を問われることが多々ありました。でも、マイプロジェクトアワードの場では「好きだからやっている」も含めて、いろいろな学びが認められています。高校生同士や大人のファシリテーターやも含めて、互いに「いいね」をし合う対話が行われていました。いろんな評価軸で評価し合えたことで、自分の見方が広がったと思います。

 

――これからどんなことに取り組んでいきたいですか?

 

誰も作ったことがないものを作りたいと思っています。ディベロッパーや開発者、研究者になりたいですね。

 

分野としては特に情報関係。様々な研究に取り組んできて、どんな研究をしていても情報関係は役に立つと気がつきました。今だとChatGPTの話題が多いと思いますが、本当に変化が激しく、学び続ける分野だと思っています。大学でも専攻したいです。

 

――探究・マイプロジェクトに伴走する大人たちへメッセージをお願いします。

 

僕の場合は、どんどん人を頼っていいんだと思えたことが、探究を進める上で原動力になりました。探究はやっぱり答えがないし、常に課題にぶつかるので「本当にできるのか」不安です。だからこそ「周りを頼っていいし、失敗してもいい」ことを伝えて、積極的にアクションすることを後押しして欲しいと思います。

 

今回のインタビューから見えた「マイプロを伴走するためのヒント」

 

①「小さくアクションして改善する」試行錯誤の姿勢

 

デバイスのユーザーテストなどのアクションから、高田さんの「まずは試して、調べて、改善して」というアクションのサイクルが多く見受けられたかと思います。

このような学び方はOECDが提唱している「AARサイクル(見通し・行動・振り返り)」とも合致するでしょう。

探究学習は誰も答えを知らない問いに向かって進みます。全国高校生マイプロジェクトアワードで受賞した高田さんも、たくさんの試行錯誤を積み重ねていました。

自身が抱いた興味関心から、どんなに小さなものでも、アクションしてみることが大切です。アクションすれば、結果から学ぶことができ、次のアクションに繋がります。

 

 

※AAR(Anticipation-Action-Reflection)サイクル:学習者が継続的に自らの思考を改善し、集団のウェルビーイングに向かって意図的に、また責任を持って行動するための反復的な学習プロセス(「OECD Learning Compass 2030 仮訳」より引用)

 

②意欲を育む他者の可能性

 

生徒の意欲を育むことに悩んでいる先生も多くいらっしゃるかと思います。高田さんの取り組みの興味深い点は「ニュースで知った課題を他者と関わる過程で自分ごと化」していったことです。

身近な先生に背中を押してもらいながら、実際の視覚障害者の方に出会い、意見をもらったり、応援してもらったりしたことで本気になれたと話してくれました。

意欲を育む上で、自分の興味関心があること・好きなことをするのも、とても大切ですが「誰かの役に立てた」「期待をしてもらっている」などと感じられる機会があることも、非常に重要なのだと思います。

 

③「答えのない問い」に挑むからこそ、どれだけやっても不安は残る

 

探究学習の過程は試行錯誤や失敗の連続で、見通しが持ちづらく曖昧性の高い期間も一定程度あるでしょう。その過程にこそ学びや成長があるのですが、生徒にはやはり不安や葛藤がつきまといます。

だからこそ、見守ったり寄り添ったり、気軽に頼れたりする人がそばにいるかどうかは、粘り強く取り組み続ける上で、重要なのかもしれません。

 

次回は7月初旬に高田さんが所属した物理部の顧問である岡田直之先生のインタビュー記事を掲載します。物理部での取り組みはもちろん、授業の中でもどのような取り組みが行われていたのか、詳しくお伝えできればと思います。

 

 

(文:マイプロジェクト全国事務局 横山和毅・内海博介)

 

■パートナー登録者向けサイトにて高田さんの発表動画を公開中

 

マイプロジェクト事務局では、高校生の探究・プロジェクトに伴走される先生方・教育関係者の方に無料で利用できる「パートナー登録制度」を用意しています。登録すると、全国高校生マイプロジェクトアワード2022全国Summitにて行われた高田さんをはじめ、出場した様々な高校生の発表・対話動画を見ることができます。そのほかにも、主体性を重視して「総合的な探究の時間」を推進している高校さんの事例を、勉強会やアーカイブ動画でご紹介しているのでぜひご検討ください。

 

▼パートナー登録フォーム
https://myprojects.jp/partner/form/

 

▼「2023年度マイプロジェクトパートナー登録」の詳細
https://myprojects.jp/partner/

 

▼パートナー登録をすることで、提供できるサービス
 ①探究・プロジェクトの実践支援に活用できる「探究ガイドブック」の閲覧
 ②各地のパイオニアに学び、登録者同士で交流できる「オンライン勉強会」への参加
 ③過去事例を閲覧できる「勉強会アーカイブ動画/高校生の発表事例動画」

Categoryカテゴリーごとに見る
伴走者 伴走者インタビュー パートナー マイプロを育む「学びの土壌」 お知らせ イベント プログラム レポート 高校生インタビュー メディア掲載
Monthly月ごとに見る