LOADING

LOADING

マイプロジェクト

地域Summit

2023.10.11

現場に浸り、対話し、みつけた探究テーマとその後[マイプロを育む「学びの土壌」Vol.3 ]

 

マイプロジェクトを実践した高校生たちがどのような環境や取り組みの中でプロジェクトを発展させ、学びを深めてきたかを紹介する「学びの土壌」シリーズ。

 

第3弾は2023年3月に開催された全国高校生マイプロジェクトアワード2022全国Summitにて、ベスト オーナーシップ賞を受賞した坂口貴哉さん。

 

獣害問題に関わる様々な人へのヒアリングや、廃棄されるキョン(鹿の一種)やシカの骨を用いたキーホルダー作りのワークショップを行いました。高校卒業後の現在は、ニュージーランドに半年間留学し、猟師の育成や多くの人が狩猟に関われる仕組みづくりをする「狩猟塾」の起業を準備しています。

 

坂口さんはどのようにプロジェクトを進め、学びを深めていったのでしょうか。

 


 

現場に「浸る」ことでつくりたい未来が見えてくる

 


 

左が坂口さん、右が一緒に活動している大学生の大野さん

 

――マイプロジェクトに取り組むに至った経緯を教えてください。

 

僕は兵庫県の田舎で生まれました。家の扉を開ければ、すぐイノシシが見えるような場所です。子どもの頃は少し怖いと思う気持ちもありましたが、僕は動物や獣が大好きでした。

 

小学生の頃に東京に引っ越してからは動物や獣と触れることもなくなっていましたが、中学生になって地元に行く機会があり、その時にイノシシがいなくなっていることに気づきました。あれだけたくさんいたイノシシがどこに行ってしまったのか。その理由を調べているうちに、獣たちが田畑などを荒らす獣害の問題と、殺処分されている現状を知りました。


それから農村を訪問したり、サマーキャンプに参加したりしながら、この問題について考えていたのですが、より深く獣害と獣の殺処分について知りたいと思い、高校2年生の秋頃にある猟師のもとで泊まり込みの修行をさせていただきました。

 

そこで農業や人的被害を抑えるためとはいえ、大好きな獣が捕獲され、食べられもせず廃棄されている現場を目の当たりにし、衝撃を受けたことをよく覚えています。このままで本当にいいのか、僕は納得できない気持ちを抱いて、「獣害0・命の廃棄0」の世界をつくりたいと思いました。

 

――小さい頃の体験がもとになっているのですね。探究の授業でもこのテーマについて取り組んでいたのでしょうか?

 

そうですね。探究の授業のオリエンテーションで「探究は一時的な発表とは違って、長い間取り組んでいくものになるかもしれない。だから、常に考えていてワクワクするもの、苦にならないものを選ぼう」と言われたのを覚えています。それなら僕は獣害、狩猟だとすぐ思いました。

 


 

様々な立場の人との対話から、多角的にテーマの理解を深める

 


 

――どのようなプロジェクトに取り組んだのでしょうか?

 

まずは様々な人が獣害問題について知るきっかけを作りたいと思って、中高生を対象にしたワークショップを実施しました。キョンやシカの骨を用いたキーホルダー作りを通して、問題について知るとともに、どう向き合っていくかを考えるものです。

 

現在は新規猟師の育成や、都市に住みながらも狩猟に使用する罠の備品代を負担して、その分取れたジビエを受け取ることができるようなシステムを運用する狩猟塾を立ち上げようとしています。

 

中学生・高校生向けに実施したワークショップの様子

 

――どのようにプロジェクトを進めたのでしょうか?

 

とにかく様々な立場の人に話を聞くことを大事にしました。例えば、猟師の方は現場のことはよくわかっていますが、自分の経験に偏りやすいと思います。

 

一方で研究者の方は山にいる鹿やイノシシの生体は詳しいですが、農民の方が現場で困っていることや、実際にどんなことが行われているのかはあまり知らないケースもありました。

 

様々な立場の人の話を聞くからこそ、問題の構造を理解することに繋がると思っています。

 

僕が実践していたのは「話の中で登場した、別の立場の人に話を聞きにいく」ことでした。

 

これを繰り返していくと、どこかのタイミングで一度話を聞いたことがある立場の人に戻ってきて、その頃にはかなり色々な視点で物事を見られるようになっています。

 

――なるほど、面白いですね。どうしてそのような進め方をするようになったのでしょうか?

 

プロジェクトを始めた頃、僕は獣を殺すことに反対している方々を中心に話を聞いていきました。

 

しかし、たくさんの人と話をしていくうちに、自分はひとつの視点で物事をみていることに気が付きました。様々な立場から物事を捉えて、その上で「自分の意見」をつくっている人の話を聞いて、深く共感し、自分もそのような多角的な視点を持ちながら、プロジェクトと向き合いたいと思いました。

 

――特に活動の後押しになった、周囲の方の「かかわり」はありますか?

 

周りの大人の方々は、対等な立場で関わってくれたと思います。

 

プロジェクトに協力いただいた猟師の方は「こんな協力はできるけど、それならここは私たちに協力してほしい」など、良い意味で子ども扱いをしないで関わってくれました。

 

「高校生だから」といった様子もなく、僕自身が責任を負っていることを自覚しながら、取り組めたことが自分の成長にも繋がったと思っています。

 


 

マイプロジェクトアワードは

「立ち止まって振り返れる場」

 


 

 

――全国高校生マイプロジェクトアワード2022に参加しましたが、率直にいかがでしたか?

 

一番嬉しかったのは仲間を見つけられたことだと思います。取り組んでいるテーマは違っても、自分と同じように好きなことに熱中している人がたくさんいて、それぞれ発表したり、質問したりするのが面白かったです。

 

――坂口さんにとってマイプロジェクトアワードはどんな場でしたか?

 

「立ち止まって振り返れる場」ですね。今までとにかくプロジェクトを進めるために目の前のことに取り組んできましたが、アワードの場を通して、何を感じていたか、どう思っていたかを思い出すことができました。振り返ったからこそ、これから何をしていきたいか、より明確にできたと思います。

 

――高校を卒業してからは通信制の大学に通いながら、ニュージーランドに留学し、今は起業の準備もされています。その選択をする時に、不安はありませんでしたか?

 

留学すること、特に通信制の大学を選択する際はとても迷いました。でも、人生は1回しかないですし、自分なりに根拠があってやりたいと思うことはやったほうがいいと思って選択しました。

 

ニュージーランドは世界有数の環境先進国なので、狩猟と深く関わる自然について現地を訪問しながら学んでいます。当然日本にいたときよりもコミュニケーションは難しいですが、やりがいがあります。

 

10月頃には帰国して、猟師育成や多くの人が狩猟に関われる仕組みづくりができる「狩猟塾」を仲間たちと一緒に始める予定です。

 

――探究・マイプロジェクトに取り組む高校生・伴走する大人たちへメッセージをお願いします。

 

高校生には、寝られないくらい興奮することに取り組んでほしいです。今そういったことを持っていない人は、まずは探すことから始めてみてほしいと思います。色々なことに挑戦してみて、自分にとっては楽しくない、面白くないことがわかるのも、大きな価値です。それが在学中の探究のゴールになってもいいと思います。

 

今回のインタビューから見えた「マイプロを伴走するためのヒント」

 

現地に浸る身体経験を通じて「感情の揺らぎ」を原動力に変える

 

生徒自身が取り組んでみたいテーマを設定することに課題を感じている方も多いかと思います。また、様々な体験機会をつくったとしても、生徒の探究テーマに繋がっていかない、といったこともあると感じています。

 

坂口さんは大好きな獣が捕獲され、廃棄されている様子をみたとき「納得できない」と強く感じていました。この感情の揺らぎを起こすためには「現地に浸って感じる」ことと「体験を振り返って感情を言葉にする」機会をつくることが重要ではないでしょうか。

 

 

様々な立場の人との対話からテーマの理解を深める

 

生徒がこれまでの人生で経験してきたことや出会った人は、当然限定的なことが多いため、一方向的な視点で物事を捉えてしまっていることがあると思います。

 

しかし、ある一つのテーマや問題には本当に様々な人たちが関わっており、その立場によって直面している課題や苦労は違ってきます。

 

坂口さんの興味深い点は、農家・猟師・研究者など、「獣害」というテーマにかかわる様々な立場の人と対話をすることで、問題の複雑さを理解し、取り組む活動を考えていったことです。

 

テーマに対する多くの視点を獲得することで、起きている問題の本質に近づけていけるのかもしれません。

 

 

 

卒業してからも「獣害0・命の廃棄0」を目指して、活動を続ける坂口さんにとても勇気をもらいました。次回の記事は10月に公開予定です。マイプロジェクトアワード2022全国Summitに2プロジェクト出場した静岡県立川根高等学校の事例を紹介したいと思います。

 

(文:マイプロジェクト全国事務局 横山和毅、内海博介)

 


 

■パートナー登録者向けサイトにて坂口さんの発表動画を公開中

 

マイプロジェクト事務局では、高校生の探究・プロジェクトに伴走される先生方・教育関係者の方に無料で利用できる「パートナー登録制度」を用意しています。登録すると、全国高校生マイプロジェクトアワード2022全国Summitにて行われた坂口さんをはじめ、出場した様々な高校生の発表・対話動画を見ることができます。そのほかにも、主体性を重視して「総合的な探究の時間」を推進している高校さんの事例を、勉強会やアーカイブ動画でご紹介しているのでぜひご検討ください。

 

▼パートナー登録フォーム
https://myprojects.jp/partner/form/

 

▼「2023年度マイプロジェクトパートナー登録」の詳細
https://myprojects.jp/partner/

 

▼パートナー登録をすることで、提供できるサービス
①探究・プロジェクトの実践支援に活用できる「探究ガイドブック」の閲覧
②各地のパイオニアに学び、登録者同士で交流できる「オンライン勉強会」への参加
③過去事例を閲覧できる「勉強会アーカイブ動画/高校生の発表事例動画」

Categoryカテゴリーごとに見る
伴走者 伴走者インタビュー パートナー マイプロを育む「学びの土壌」 お知らせ イベント プログラム レポート 高校生インタビュー メディア掲載
Monthly月ごとに見る