学校マイプロを紐解く③/ー「生徒が主役」のアクションをー島根県立吉賀高等学校
学校発の探究・マイプロジェクトが当たり前になりつつある今、その本質はどこにあるのか。
このシリーズでは、探究・マイプロジェクトに取り組む高校生を支援するパートナーを対象に月1回開催されているonline勉強会に登壇いただいた事例提供校の話題を元に「学校マイプロとは何か」を紐解いていきます。
今回のゲストは、全校生徒100名の小規模校・島根県立吉賀高等学校に勤める中村美楠子先生です。
先生の「問い」はご自身の担当教科である英語の授業で感じた生徒への違和感から始まります。
素直で真面目だが、進学意識が低くモチベーションがない生徒。受け身の生徒。こんな生徒が主体的に動くためにはどうしたらいいのか。
先生が持った仮説は「視野を広く持ち、物事を解決していく力を身につけるために、校内外でそれを経験できる場が必要」ということ。
前任校である同県立大東高等学校での「地域とつながるキャリア学習」での取り組みに続き、現任校で始まった総合探究の授業「アントレプレナーシップ教育(通称アントレ)」の内容も、そんな先生の仮説に通じるものでした。
アクションは「エンジン」
与えられた課題ではなく、自分で発見した課題に取り組むこと。
学校だけではなく、地域というフィールドも活用すること。
アントレで重視しているのは上記の2点だと、中村先生は言います。
「自分とはどんな人間なのか、何が強みなのか、何をしていきたいのかを考えることが最終的なゴールです。だからこそ基本的には個人で取り組むことを推奨しています」。
そして、必ずアクションすることを課しているとのこと。
「誰かに何かの影響を与えると、自己有用感を持つ。これが学びへの意欲や次のアクションにつながる」と中村先生。
マイプロジェクトにおけるアクションには、まさにそのような効果があると考えています。
それは「アクションを行うことによってこそ主体性が身につき、自己変容につながっていく」ということ。
最初から主体性がなければアクションはできないのでは?という考えもありますが、逆であることの方が多いと感じます。
つまり、アクションこそがエンジン。
特に、課題を解決したり、理想を実現するために、直接対象に働きかける「課題解決のためのアクション」には労力も時間もかかりますが、責任感や予想外・失敗の体験、他者との協働などは課題解決を試みることによってこそ生まれるのです。
これらは、OECDの「Education2030」で定義された3つのコンピテンシーにもつながる体験だと考えられます。
やがてアクションは「自分ごと」になる
実際、吉賀高校ではさまざまなアクションが実践されていると言います。
町の文化を紙芝居にして小学生に読み聞かせをした高校生、
得意な音楽でお年寄りに元気を届けようと演奏会を開いた高校生、
町の自然を活かしたアスレチックを手作りし、子どもたちに届けた高校生、
異文化理解を深めるために、給食をテーマに子どもたちと交流した高校生、
入院患者さんを楽しませるために病院でプラネタウムを実施した高校生、
防災士の資格を活かし、親子向けの防災講座を開講した高校生…
コロナ禍の状況でもたくさんのアクションが生まれているという事実には驚かされます。
さらに吉賀高校では、1回ではなく複数回でのアクションを目指しているとのこと。アクションを重ねる中で、言語化が苦手だったり表に出ることが苦手だったり、なんでも人任せだったような高校生が変容して行ったと中村先生。
「そのうち相手から依頼が来るようになったりするんです。春休み中の依頼にも関わらず「行く」といった子がいて。ジブンゴトになっていなければそれは起きないですよね」。
アントレの締めくくりとして3年生たちには3年間の総合探究を振り返り、発表する場が設けられます。
下級生を前に1人、10分間。なかなか長い発表時間ですが、話せない生徒は一人もいません。さらに、多くの生徒が目指す資質能力で掲げられた「挑戦する力」「計画・実行力」「振り返り学ぶ力」が伸びたと振り返るとのこと。
素地づくりと体制づくり
ここまで「アクション」を徹底する探究が実現できている背景には、日常の「素地づくり」と「体制づくり」があると中村先生はいいます。
ポイントは「総合探究だけの時間でなんとかしようとしないこと」。
例えば、生徒の「will」を大切に引き出すという関わり、そして失敗が許される安心安全な場づくり。
それは校内行事で生徒を前面に出してみたり、教科の授業でも何かをつくる・多様な人と交流をする場面をつくるようなことから始まります。
また、パフォーマンス評価ベースの授業を行ったり、探究活動の「公欠」を可能にしたりするなど、体制づくりにおいても工夫が見られます。
教員にも生徒にも共有されているビジョン
なぜ、吉賀高校ではここまで意思の統一ができているのでしょうか。
それには、どんな生徒を育てたいのかという共通認識が、教員に、そして生徒にも共有されていることが関係しているのではないかと感じます。
また「アントレ」という言葉が合言葉として浸透していることも大きな要因ではないでしょうか。
「生徒自身が「考え」「やってみる」。さらに生徒が経験や学びの価値を「語る」。その中で、多様な他者が関わっていく。これが自分ごとのプロセスです」。
そう結論づけ、教科書にない学びを自分自身も考えながら実践する日々ですよ、と場を締めくくった中村先生。
先生自身が探究者のスタンスであるからこそ、生徒と「一緒に」探究することが実現できているのかもしれません。
(文責:NPOカタリバ 吉田 愛美)