【全国Summit舞台裏レポートvol.1】 2023年度のアワードに込められた想い「目の前、そしてその先にいる高校生の学びを加速させる場に」
2024年3月22日~24日に開催の全国Summitを以て閉幕した全国高校生マイプロジェクトアワード2023(以下アワード)。
開催レポート(https://myprojects.jp/news/18424/)では伝えきれなかった、あの場に込められた事務局側の想いについて発信していきます。
今回は、アワード全体統括を務めた山田将平が、今年度のアワードへの想いやこだわりについて語ります。
山田将平(やまだ・しょうへい)/NPOカタリバ 全国高校生マイプロジェクト全国事務局リーダー
1991年愛知県生まれ。筑波大学人文・文化学群卒。もともとは教員を目指していたが、「高校生がやりたいことにチャレンジできる機会をつくれないか?」と考え、休学して都立高校で「マイプロジェクト」を授業で行う団体に参画。代表を引き継ぐ中で起業を決意。カタリバのユースセンター「b-lab」で非常勤職員として働きながら起業を目指すも難しく、まずはカタリバで、実現したい未来をつくる力をつけようと思い、非常勤職員から正職員へ。2016年よりマイプロジェクト事務局を担当。全国を駆け回りながら学校の先生や地域団体、自治体とともに高校生へマイプロジェクトを届け続け、近年はアワードの運営統括も担う。
過去インタビューはこちら>https://www.katariba.or.jp/recruit/interview05/
予測不可能な社会を生き抜く意欲と力を育む「マイプロジェクト」
――まずはじめに、「全国高校生マイプロジェクト」の事業について教えてください
戦争、自然災害、環境問題、エネルギー危機など、世界/社会の分断や課題が加速する今の社会において、わたしたちはそれぞれが挑戦・協働しながら「よりよい未来を描き・創造する」ことが必要な状況になっています。
しかし、日本財団「18歳意識調査(2022)」によると、日本の18歳のうち、「自分の行動で国や社会を変えられる」と思っている割合はわずか26.9%等と、日本の若者の自己効力感が低さが指摘されています。
わたしたちは、「マイプロジェクト」”身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げ、実行することを通して学ぶ経験”を通じて、どんな環境にいる高校生でも「自分が動けば、未来/社会は変えられる」「私はこれがやりたい」、そんな意欲と力を育むことを目指しています。
主な取り組みとしては、探究学習に取り組む高校生を支える先生方への後押し(マイプロジェクト/探究に関する教材/ツール提供や勉強会を実施)、各地の教育支援団体等(以下「地域パートナー」)と連携し地域で学校や高校生を支えるプログラム実施やネットワーク構築、マイプロジェクトに取り組む高校生の学びを加速させるとともに彼らにスポットライトをあてる「マイプロジェクトアワード」の開催です。
取り組みを始めた2013年には18人だったアワード参加者も、11回目を迎えた2023年度には6,826人からのエントリーがあり、マイプロジェクトに取り組む高校生も約10万人にのぼりつつあります。
また、マイプロジェクトを経験した高校生向けアンケートによれば、
・約8割が「私の参加により、社会を変えられるかもしれない」と回答
・約9割が「社会をよりよくするために社会の課題に関与したい」と回答
と、マイプロジェクトの経験を経て、自己有用感や社会参画意欲の向上がみられています。
(※マイプロジェクト的な要素を取り入れた探究に取り組んだ高校生1,654人)
探究的な学びが広がったいま、浮かび上がる構造的な難しさ
――11年目を迎えたいま、改めて捉えている課題はありますか
2022年に高校の学習指導要領に「総合的な探究の時間」が位置づけられたことで、全国の高校生に探究的な学びが拡がりました。
その中で捉えている課題は2つあります。
1つ目は、「高校生が内に秘めた意欲を表現しやすい環境」をいかに作るかという点です。先生一人あたり、数十人の生徒さんを探究の時間でも持たなければならない現状がある中で、どうしても個々のサポートを十分にやりきれなかったり、生徒同士の日常の関係性があるが故の気恥ずかしさ中で、探究で関心をもったテーマに対しても「やってみたい」「おもしろそう」を表現しにくい難しさがあります。
2つ目は、経済合理性に沿うと費用負担が十分できる家庭が多い都市部や上位層向けの教育機会が増えやすくなります。本当の意味で「すべての高校生」が未来を描き、つくるための難しさが存在しています。
NPOだからこそ、すべての高校生に機会を届ける
――そのうえで、2023年度のアワードではどのようなことを目指しましたか
マイプロジェクトアワードは、高校生が自分の言葉で語り、同世代から刺激を受け、大人から応援と助言をもらうことで、取り組みを推進する意欲とヒントを得る機会です。
地域Summitを通して、各地域で「その地域の高校生のために」と旗をふる地域パートナーのみなさんとの連携と、それがこのタイミングではつくれないエリアについてはオンラインを活用することで、地方を含めできるだけ多くの高校生に1歩踏み出す機会を届けることを意図しました。
そのために、地域Summitのキャパシティーをできる限り大きくし、今年度は12月から2月にかけて、18団体の地域パートナーとともに約30日程ほどで地域Summitを開催、また、令和6年能登半島地震の影響を受けた高校生向けの代替日程も開催しました。結果、1,562プロジェクト・4,435名の高校生が参加してくれました。
ときには経済合理性に逆行するとしても、どうしたらすべての高校生に機会を届けられるか。NPOだからこそ、その点にこだわりながら取り組んでいます。
参加者の「学びの最大化」にこだわり、未来の高校生への道しるべをともに考える場に
――全国Summitにおいて目指したことを教えてください
この場で出会った人、出会った「こと」から、どのような学びや気付きが湧いてくるか。参加するすべての人がそこに向かえるような場を目指しました。
この場がこれまでやってきたことの成果発表をする場ではなくて、【それぞれの「未来」につながる「Discovery(発見)」を探す場にしよう】といったメッセージを軸にしたプログラムです。
また、そこで生まれた光景や言葉が、今のほかの高校生や、未来の高校生にとって、どのような道しるべになるかを、参加者と共に考えられる場も意図したところです。
その一つとして、賞の在り方の変更があります。これまでは、学びのロールモデルの表彰として、観点別に賞を設けていましたが、改めて全国の高校生に探究的な学びを届けることを目指す今、アワードの在り方についても議論を重ねてきたなかで、学びのロールモデルに正解はないはず。
正解となる基準があって、そこに当てはめていく評価ではなく、正解がない中でみんなでロールモデルを探す場にしたいと考え、賞の在り方として、まず全員に「全国優秀賞」をお渡しし、そのうえでロールモデルとして発表してくれるプロジェクトに「マイプロジェクトアワード特別賞」をさらに追加するという形に変更。代表して発表してくれるプロジェクトの姿から参加者全員がそれぞれが学びを得て、ロールモデルについて考えることに重きをおきました。
――振り返って、どのように感じていますか?
実際に全国Summitの参加者からは、以下のような声をもらいました。
<高校生>
・高校生、サポーター、ファシリテーターと全ての人から意欲と刺激をもらった。1人じゃ気づかなかったことに沢山気づくことができました。
・ほんとに学びが絶えない3日間でした。絶対にこの3日間で得た学びや感情、人との繋がり、答えのわからない問いを忘れないようにしようと思います!
・全国Summitが終わったあとも私たち高校生がこれから社会を動かして行きたいという思いで溢れ、自分から動いていこうと心が動かされた
・3日間、考えて、向き合って、学びまくった!!色んな気持ちを感じる中で、それにしっかり向き合い、今まで知らなかった考え方や新しい自分を見つけることが出来ました。地元に戻って、日常に戻ったように見えても、マイプロ前に見えてたものと全然違います。「自分にもできる」の範囲が広がりました!
<引率の先生>
・優劣を決めるものではなく学びの祭典である、というスタンスを崩さず、ワークショップを交えながらの3日間は非常によい学習だと思いました。何よりも生徒が楽しそうでした。
・勝ち負けではなく、まさに「学びの祭典」として、プログラム全体に一貫した姿勢があった。
・3日間、とても密度の濃い時間だった。参加した生徒たちが何よりも早くうちの生徒たちへ還元したいと言っており、私が想像する以上に充実感でいっぱいになった
・高校生のマイプロジェクトだが、教員としても大人としても学ぶことが多くあり、私自身も学びになりました。
<観覧>
・高校生の姿に刺激をもらい、自分も頑張らねばと思った
・自分等大人世代の忘れかけている夢へ向かう気持ちと姿勢を、もう一度考え直す機会を与えてくれているような気がした
これらの声が示すように目指していた「学びの場」の実現にまた一歩近づけたのではないかと思っています。また、全国Summitの場をともに創った地域パートナーや、カタリバの他事業部含めたスタッフと一緒に自分たちが創りたい場を確認することができました。今年度実現できたこういった「学びの場」を、どう次年度につなげていこうかワクワクしています。
社会をともにつくっていく仲間として
――最後に、マイプロジェクト事業の今後の目標を教えてください
マイプロジェクトに取り組んで「自分の行動で国や社会を変えられる」と思う若者が増え、社会をともにつくっていく仲間として一緒に頑張っていく未来をつくりたいですね。
今回参加してくれた高校生も、「身の回りの課題に対して自分から動いていこうと思った」「今度は自分が高校生を支える側にいつかなりたい」と言ってくれた高校生が多くいました。
2026年には、1学年約100万人のうち、10%の10万人がマイプロジェクトを実践しているところまで拡げていきたいと考えています。
そのために、いくつかの新たな取り組みを進めているところです。一つは、高校の先生方に対する新たなツールの提供です。探究の時間で多くの高校生がつまずく「最初の一歩となる、やってみたいテーマや意欲の表現」をサポートするツールです。もう一つは、各地域パートナーが支える地域での取り組みが持続可能になっていくようなリソース確保の仕組みづくりです。
これらの活動を通じて、今後数年かけて最終的には47都道府県で地域パートナーが高校と高校生と共に、熱い地域をつくっていくことを目指していきます。
――次回は、こうした想いが全国Summitではどういったこだわりのプログラムになったのか。全国Summit舞台裏vol.2<高校生プログラム編>をお届けします!
【私たちと共に、全国の高校生へマイプロジェクトの機会を届けませんか?】
全国の高校生にマイプロジェクトを届ける取り組みは、皆様からの貴重なご支援によって成り立っています。
マイプロジェクトの機会を継続的に、また1人でも多くの高校生に機会を届けるために、是非皆様からのご支援いただけますと大変ありがたく存じます。
▼ご寄付で応援
1000円からご寄付いただけます。
https://myprojects-join.jp/cheer#donation
いただいたご寄付は、
・高校生の学びを深め、加速させる発表と対話の場「マイプロジェクトアワード」の実施および高校生の招待費用(旅費交通費・食事代も含む)
・高校生に伴走する教員と共にマイプロジェクトを実践する「学校支援」事業
・全国の地域パートナーと共に各地で学びの土壌を作る取り組み
などに大切に使わせていただきます。
引き続きマイプロジェクトへの応援をよろしくお願いいたします。