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マイプロジェクト

地域Summit

2021.7.26

学校マイプロを紐解く②/ー自走に向けた伴走のステップー岡山県立津山東高等学校

学校発の探究・マイプロジェクトが当たり前になりつつある今、その本質はどこにあるのか。

このシリーズでは、探究・マイプロジェクトに取り組む高校生を支援するパートナーを対象に月1回開催されているonline勉強会に登壇いただいた事例提供校の話題を元に「学校マイプロとは何か」を紐解いていきます。

岡山県立津山東高等学校は普通科とともに、食物調理科、看護科を有する総合高校。「行学一如(行うことと学ぶことは一体)」という校是からは「アクションから学ぶ」マイプロジェクトとの親和性を感じさせます。

総合的な探究の時間ではこの校是を体現した「行学」という授業が行われており、2019年度には授業をきっかけにマイプロジェクトを行った生徒が全国高校生マイプロジェクトアワード全国Summitにも出場。今回はそんな津山東高校に昨年度まで勤めた先生とコーディネーターにお話を伺いました。

 

「伴走」が目指すもの

今回のテーマである「伴走」とは一体なんのことか。探究における教員の伴走の姿を噛み砕いていくと、下記の3つに大別できるのではないかと考えています。

 

多くの高校生には上記のような伴走が必要です。しかし、常に伴走が必要というわけではありません。伴走とは、段階を経て自走に向かっていくものだからです。最終的に目指すのは、伴走のいらない「自走」状態。伴走者は変わりゆく生徒の状態を見立てて、必要な支援をしていくことになるのではないか、というのが私なりの仮説です。

「最初から自走できる子はいない。だからこそ、小さい子が自転車に乗れるようになるときと同じように、だんだんと手を放していくような関わりが必要」。そう話すのは、昨年度まで津山東高校で主幹教諭を務め、現在は県立和氣閑谷高等学校の教頭として旗を振る、久常宏栄先生です。

 

津山東高校の生徒はいわゆる「中間層」と呼ばれるような高校生。日本の高校生たちの多くがそうであるように、自己肯定感も決して高くありません。だからこそ、「小さな成功体験の積み重ねがまずは必要」だと久常先生は言います。

 

前進するための「自己肯定感」

津山東高校の「行学」では、1年生は校外よりも校内での活動に主眼をおいています。まずは安全な学校の中で、基礎体力をつけるのです。

例えば、あえて「友人がいない」グループで、興味・関心のあるなしに関わらずさまざまな学問や職業について考える「まなびプロジェクト」。校内の中でも新しい関係性をつくりやすく、自分自身の興味・関心が何かまだ分からないという状態の生徒が多いのは1年生ならでは。「普段と異なる関係性の中に生徒を入れるのは勇気がいること」といいますが、それでも「できます!」と久常先生。むしろ、新しい関係性の中で新しい自己を発見する生徒も多いのだそうです。

一方、住む街の事業仕分けをしてみるというユニークな取り組み「SIM津山プロジェクト」では、根拠を持って意見を出すことや、多角的に考えることを徹底。久常先生いわく「教員にも常に根拠を持って話すことを徹底してもらっている」とのこと。

これらのプログラムを通して、コミュニケーション力や思考力の土台が培われた先で用意されているのが「発信力プロジェクト」です。それまでのようなグループ単位で発表をするのではなく、あえて1人で発表させることで小さな挑戦機会にしています。

 

 

興味関心を「深める」そして「拓く」

こういった1年次の活動を久常先生は「広げる」と表現しますが、「深める」段階と位置付ける2年次の活動で初めて、津山東高生は校外へと飛び出します。

「地域プロジェクト」では、複数の中から興味のある分野を選び、グループ単位でフィールドワークを行い、課題設定や解決に向けた提案を経験。「実践をするためには相手が必要」と久常先生が言うように、相手がいるからこそ実践に対する責任が高まり、多様な観点からのフィードバックを得ることができるもの。中には厳しい意見や失敗体験もあるはずですが、それを乗り越える上では1年生の経験がベースになっているのでしょう。

その後、地域で得られた経験からより大きな社会に視点を広げるべく、活動報告を兼ねた論文の執筆も行います(「社会世の中プロジェクト」)。

 

最終学年の3年次は「拓く」段階。ここでは個々人が興味のある分野を選び、グループディスカッションやディベートなどを通して「自分の意見を持つ」ことがゴールになるのだといいます。最後は「自分」に還っていく過程は、前回ご紹介した津和野高校の事例にも通じるものを感じます。「生徒のゴールは変わってもよい」と久常先生が強調するのは、探究で重要なのは結果だけではなく、内面の振り返り、気付き、成長であるという考えが根底にあってこそ。「同じ探究をやっていても、たどり着くところは分化するもの。たとえ高校でどこかにたどり着かなくても、卒業後に見つけられればいい」と、そもそも高校卒業時点をゴールと捉えていないのも特徴です。

 

「行学」におけるポイント

津山東高校の「行学」におけるポイントは「探究に向かうための準備体操」にあると感じます。

自己肯定感、物事を見る視点、興味関心の発見。探究を始める上で必要不可欠なこれらを、段階を踏みながら身につけていく過程が用意されています。それらは探究に限らない5教科の勉強や、少し高い目標となる大学への挑戦などにも確実につながっていると久常先生が強調するように、探究の準備体操は学びの準備体操でもあるのかもしれません。このようなステップは、システムとしての伴走と表現することもできるのではないでしょうか。

 

「(行学を通して)全員が明らかに成長しているし、最終的には8割くらいの生徒が自走している感覚がある。自走できる子は大学や実社会でもリーダーになれる」。力強い久常先生の目線の先には、生徒たちが進む長い人生の道のりが見えているようでした。

 

(文責:NPOカタリバ 吉田 愛美)

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